日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載。
(問10、11)などでは「科学者と漁師さんが分かり合えていない現状」を
それぞれお伝えしました。
いくら科学的に見て「漁業規制を強めた方が魚が増えて漁師さんも儲かる」となっても…
実際に漁をするのは漁師さんです。
漁師さんが科学に納得できなければ、規制は守られづらくなってしまいますし、科学者と漁師さんの間に感情的なしこりができてしまう。良くありません。
恐らく一番大切なのは、漁業界が「漁業規制は『仕事の邪魔』ではない。規制は、将来の自分たちの漁獲と収入を高めてくれるもの」という空気づくり。
前提として漁師さんと科学者が分かり合うこと。
そのために、科学者は漁師さんとコミュニケーションの機会をつくり、分かりやすい情報発信を心がけること。
漁師さんは、科学者に耳の痛いことを言われても、ちゃんと向き合うこと。
こうして科学者と漁業界、お互いが歩み寄ることが不可欠。これが筆者の結論です。
・・・
米国では、漁獲量を規制する時、必ず科学者の勧告に従って決めると法律で定めています。
米国海洋大気庁の元長官はこう説明します(リンク参照)。
「漁獲量を決める時、漁師さんの声を基にすると、『もう少し獲らせて』との声が重なって『頑張りすぎ・資源枯渇』につながりやすい。
科学的な漁業管理には反対する漁師さんもいるが、効果は絶大だ。科学を重視し始めた当初の2008年と比べ直近で、米国内の(魚資源が回復して)漁獲量が23%、水産関係(加工・流通など含む)の雇用が35%増えた」。
一方で、元長官はこうも言います(リンク参照)。
「漁師さんの納得なく政府が資源規制を押し付けたところで、漁師さんは抜け穴を見つけ出す。規制は守られない。
漁師さんに対し『(漁獲を規制て)短期的には損かもしれないが、長期的には得をする』と伝え納得を得る。これが政府の役割。きちんと会話し合意を得る時間が必要」。
そして、漁師さんの納得を得るために大切なのが科学だということです。
・・・
一方の日本では、科学者が「頑張りすぎ」を指摘しても、それを認めない空気が、漁業界に強く残っています(問7参照)。
恐らく、今の日本の漁業界に一番大切なのは、みんなが前向きに
「漁業界が「漁業規制は『仕事の邪魔』ではない。規制は、将来の自分たちの漁獲と収入を高めてくれるもの」
「自分たちの商売のためにも、資源保全を頑張ろう!」
と思える空気づくり…だと筆者は考えています。
・・・
そのために、科学者は漁師さんとコミュニケーションの機会をつくり、分かりやすく情報発信をする必要があるでしょう。
国の会議で、科学者が「この魚種は今、これだけ海にいますよ」「こういう理由で減っていますよ」という説明をすることがあります。
ただ、科学者の説明は専門用語や難しい数式ばかり。正直、よほどの専門知識がなければ理解し切れません。
科学者側には、もっと噛み砕いた説明ができるよう、練習が必要です。
科学者が勇気を持って漁師さんに話しかけることも大切です。
科学者が「『頑張りすぎ』なんて指摘したら、漁師さんや行政に怒られる」と話しかけるのをためらうケース(問7参照)も多いのですが…
ちゃんとコミュニケーションを取らなければ伝わるものも伝わりませんし、そもそも、どういう話し方をすれば伝わるのかも体得できません。
そして、科学者は漁師さんとコミュニケーションを取らなければ、漁師さんから情報をもらうこと(問10のような感じ)もできなくなります。
科学者が漁師さんとコミュニケーションを取ろうとしたとき、行政が怒ったりせず応援してあげるのも大切です。
・・・
一方の漁業界は、科学者に耳の痛いことを言われても、ちゃんと向き合わないといけません。
確かに(問3)でお書きしたように、日本の漁業には誇るべき歴史があります。
ですが(問7)のご指摘したように、誇りや先入観が邪魔して「頑張りすぎ」た過去と向き合えていない部分があるはずです。
(問4)のように、「頑張りすぎ」れば、業界は自らの首を絞めてしまいます。
そして、問(5,6,8)のように、魚が減った理由を環境条件や外国、一部の企業ばかりに押し付けてしまえば、「頑張りすぎ」に対策できなくなってしまいます。
時代の変化の中で、船は動力化され、ソナーやGPSが入り、網は強くなりました。
その結果「頑張りすぎ」ていたとしても、日本の漁業が長い歴史を持ち、高い漁獲効率も、多種多様な魚を生食できる形で出荷できる技術を育んできた。
世界に誇れる漁業をつくりあげてきた。この事実は動きません。
意地になって「頑張りすぎてなんかいない、これまでのやり方で良い」と叫ぶ必要はないのではないでしょうか。