「海を守る」とかいう漠然とした言葉の意味を、おこがましくも考え続けるブログ

魚オタクの筆者が、「海を守ること」「より多くの人が海の恩恵を受けること」をテーマに、たくさんの人の知恵をつなげようというブログです。 科学的な目線、社会的な目線…色々な視点から、より多くの方と関われればと考えています。 ご賛同もご反論も、ドシドシお願いします! ブログの詳細はこちら http://take-to-enjoy-the-ocean.blogism.jp/archives/2690844.html ※あくまで個人的なブログです。所属する会社等とは無関係ですのでご注意ください。

タグ:「ハレの魚」と「ケの魚」

土用丑のシーズンですね。
おさかなジャーナリスト的には「ウナギが減ってるんだって?」なんてよく聞かれます。

実際、1975年漁期に国内で96トンあったウナギ稚魚の捕獲は、2013年漁期に5トンまで減りました。その後の捕獲もイマイチで、資源がいないとか絶滅危惧とか言われています。

シラスウナギ推移
(水産庁サイトより)

だから、次に来る質問は「ウナギ、食べて良いの?」

これに本音で返すなら、
「本当に食べたいって人は食べるべき。ただし、“丁寧な”方法でね」
「それも、本当は外国と協調できてこそだけど…」です。

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【商品価値があるから、関心を得られる】

確かにウナギの資源は危機的です。でも、だからといって「1匹たりともウナギを食うな!」として、本当にウナギを救えるんでしょうか。答えはノーです。

そもそも、誰もウナギを食べなくなれば、ウナギが絶滅しようと増えようと、誰も関心を示さなくなるからです。

皆が「魚って美味しい!もっと食べたい!」と思えるからこそ、皆が「魚が獲れるように、自然を守ろう!」となります。そうならないと、必要な調査費用や政策が用意されません。

「魚や水辺の自然を守ろう!」という話になると「日本人は貴重な魚でも食べてしまう、けしからん」という人も多いんですが、逆の発想も大切ですよね。

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【実質採り放題の現状】

一方で最近、ツイッターではこんなアカウントが流行っています。
うなぎ絶滅キャンペーン
(ツイッターの同ページより)

今や絶滅危惧種のニホンウナギをファストフード店やスーパーで安売りしまくっている、そんな現代日本をブラックユーモアたっぷりに皮肉るもの。

これも一理あります。

現状、ウナギ稚魚の養殖池入制限は、好漁の14年漁期から2割減の22トンです。
22トンに届いた年は2010年代に入ってから2回だけ。つまり、現状は規制している体裁を採りつつも、「実質入れ放題、採り放題」に近い。
シラス池入制限と実測値
(同ツイッターページより)

これほど緩い“制限”になったのは関連業界の意向と聞きます。
日本だけでなく、中国や台湾にも養殖業者は多くいます。
そして関係業者からすれば、制限が緩いほど目先の商売はしやすいわけです。

(こういう話をすると、ウナギビジネスへの暴力団やマフィアの介入公然と行われる密輸がトピックになりやすいのですが…今回の本筋からは逸れるのでリンクの紹介だけにしておきます)。

しかし、減った資源を無理に採り続ければ、資源も漁獲も将来的にさらに減ることになります。

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【環境変化は「規制不要」の口実にならず】

僕はここ5年間、何度も水産関係者に「採る量の規制を強め、資源を回復させないのか」と尋ねてきました。

1番多かったリアクションは「ウナギの減少は河川の工事のせい」との反論。
次にありがちなのが「海流変化が悪い」など環境変動という見解。
ほぼ誰も「採りすぎ」の責任は認めず、捕獲規制に及び腰でした。

が…いや、いやいや

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工事が問題というなら、建設業者や国交省に訴えて解決策を研究すべきでしょう。

そして、原因が何だろうと、資源が減った時には採りすぎない努力が必要です。
工事のせいでウナギの住み処が7割減ったなら、採って良い量だって7割減る(本当はもうちょい複雑な計算が要りますが)。
要するに、採る量を減らさなければ、捕獲が自然界の再生能力を超えてしまうのです。

それに、数が減っている時に捕獲を抑えないのは、わずかに生き残った資源を追い打つということ。
実際、過去に水温などのせいでマイワシホッケが減った時も、日本の当局は「漁業のせいではないから」と言って漁獲規制をあまり強めず、産卵魚不足を起こし、資源を壊してしまいました。

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【薄利多売から「大きく高く」】

日本でマイワシやホッケが消えた時、当然、関連産業は衰退しました。同じように、ウナギ養殖も減退しつつあります。
これでは漁業者も加工業者も流通業者も消費者も魚たちも、誰も幸せにならない。
現状の「採り放題」、得策とは言いがたいです。

だったら、今やるべきは、「採りすぎず、それでも成り立つ業界」をつくることでしょう。
採る量を厳しく制限して出荷量を絞り、さらにウナギ1尾あたりの出荷サイズを大きくして、殺す尾数を少なく、得られる単価を高くしていったり。
余ってしまった養殖スペースや足りなくなってしまった蒲焼き需要は、ウナギ以外の魚で補ったり

「いっぱい生産していっぱい売ろう」ではなく、「丁寧に生産して高く売ろう」という発想です。

こうすれば、ウナギの値段が上がり、消費者には辛い。
でも、今まで通り「たくさん採りたい、安く食べたい」「捕獲規制も取引規制も避けていこう」という態度では問題を先延ばしにするだけ。その後も「採れない、値上がり」の流れがズルズル続いてしまうはずです。
何も解決せず、他の先進諸国から「また乱獲か」と批判され、では悲しすぎます。

そもそもウナギを安く食べられたのは、バブル期に日本が中国や台湾にウナギの生産を頼み始めてから、たった30年くらいの間だけ。
その30年が特別だっただけで、ウナギは本来、貴重な魚なんです。これから、「どうしても食べたい人だけが、ハレの日に高い値段を出して食べる」という商材に戻していくべきじゃないでしょうか。

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【岐路に立つ東アジアの水辺】

こうした対策をするなら、関係国全体で足並みを揃える必要があります。
広く泳ぎ回るニホンウナギを守るには、日本だけじゃなく中国や台湾、韓国も含め、皆でやらなきゃ意味がないのです。
以前はほぼ日本人だけが食べていたウナギですが、最近は中国の消費が追い抜いてきましたしね。

ニホンウナギのすむ東アジア諸国は、経済力があり、魚をよく食べ、漁業規制には反発しやすい。そして何かにつけ、いがみ合っている。
皆、他国(や科学者)に責任をなすりつけて、自制しない口実としがち(例:クロマグロ)。
国同士が団結して魚を守ることは、本当に難しいことです。

でも、ウナギに限らずサンマやスルメ、色々な資源が東アジアで減っています。
このまま放っておいて皆で損するなら、そして自然や資源をつぶしてしまうなら…救いがありません。
こうした魚たちを足がかりに、水産業の将来を考えることはできるはず。

各国で牽制しあい利用し合いながら、未来ある水産業をつくるか。
不要ないがみ合いから乱獲競争を続け、資源を壊していくのか。
その岐路に、今、僕ら東アジア人は立たされているのでしょう。

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【まとめ:東アジアで奇跡を見たい】

つまり、ウナギを守るには「関係国全体で協調する」ことと「生産したものはしっかりした値段で食べる」こと、それによって「しっかり調査研究と資源保全をすること」、さらに「他業種(建設業とか)とも連携すること」が大切。
そのためには、東アジア各国で、環境問題に本気になって取り組むという気風ができないといけない。
ハードルはあまりにも多く、高い。こんな魚、僕はウナギ以外に知りません。

ハードルが超えられなければ、どうなるか。
ウナギの生態を考えると、本当に絶滅してしまうことはないとは思いますが…減少は続くはずです。
当然、養殖業やウナギ食文化が成り立たなくなることも考えられます。

正直、ハードルはよっぽどの奇跡がない限り超えられないし、ウナギも蘇らないでしょう。
でも、裏返すと、ウナギ問題で奇跡を起こせれば怖いものなしです。

ウナギを増やせるくらい魚や環境を大切にする東アジアになったら…
ただでさえ栄養豊かな水域です。それに見合うだけの魚が戻ってくれば…とんでもない量の食料を供給できます。
ダイビングや釣り、モリ突き…そういう遊びも楽しくなるでしょうね。

僕らが生きている間に、そんな奇跡を見てみたい。淡く淡く期待しつつ、今回は筆を置きます。

「日本人の魚離れ」という言葉を聞いたことがありますか?

近年の日本。魚が減り、獲れなくなり、価格が上がった。安い畜肉も流通している。
色々と重なった結果、魚の消費量が落ち、「魚食文化の危機!」なんて言われている。

「海や魚を守ること」「より多くの人が海の幸の恩恵を受けること」をめざす当ブログとしては、悲しいことです。

では、どうすれば良いのか。筆者は

①魚を「たくさん食べる意識」から「おいしく食べる意識」への転換

②「ハレの魚」と「ケの魚」の区別


の2つが大切だと考えています。

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①魚を「たくさん食べる意識」から「おいしく食べる意識」への転換

これが必要な理由。
第一は「多くの魚種が減っていて、これ以上たくさんは獲れないから」。
そして「減った魚を無理して獲り続けると、海中で産卵すべき魚すら獲り尽くしてしまい、将来、もっと魚が減ってしまうから」です。

漁師や水産業者が魚を獲る/売る量を減らす

水産業者は魚1尾あたりの値段を上げて収入を保つ
(値段が高い魚でも売れるよう、魚の味を高める)

魚の味が良くなることで、消費者は値上がりにも納得できる

…という方向性が大切になります。

さて、こういうと「魚を獲ったり食べたりする量が減ったら、それこそ魚食文化の危機じゃないか!」というお叱りが聞こえてきそうです。

そこで、カギになるのが②だと思っています。


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②「ハレの魚」と「ケの魚」の区別


これはつまり、「たくさん安く獲って良い魚種」と「たくさん獲ったら壊滅してしまう魚種」を分けて考えるということ。

例えば近年、日本の海にいなくなっていたマイワシが復活しつつあり、よく獲れるために価格も安くなりつつあります。
このマイワシ、お安いけれど実はとっても美味しい。
特に今、梅雨時のマイワシは脂がのっていて刺身にも最高です。

こういうお魚は、あまり遠慮せず安く売買して、高い頻度で食べていけます。

逆に、日本のウナギやクロマグロ。
今、普通に安売りされていますが…安売りというのは多量に売るから商売になるわけです。
両種とも絶滅危惧種なのに、多量に売っている場合じゃないはず。

しかも、安売りの商材は、コストをかけない獲り方や処理をされています。
安かろう悪かろうで、正直、美味しくないことも多い。
消費者からすれば「せっかく高級魚を買ったのに、おいしくない」となりがちです。

こういう希少な魚種は、まず水産業界が無闇に安売りしない。獲る量を厳しく規制し、売る量も絞って、代わりに美味しい状態で出す。
消費者側は、こういう魚をちょっと特別な「ハレの日」にだけ、それなりの金額を出しておいしく食べるべきでしょう。


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そんなこんなで、このブログで漁業/魚食について書くときは今後も

①魚を「たくさん食べる意識」から「おいしく食べる意識」への転換
②「ハレの魚」と「ケの魚」の区別


この2つのテーマを柱にしたいと思います。

これからは、①や②の背景や実践方法について、具体的な話を書いていく予定!
水産業界目線、消費者目線、科学者目線、未来志向…色んな角度からお話したいと思います。

漁業/魚食は筆者の専門とも近いので、この辺の話題が向こうしばらくは中心になるかと思います。
良かったらお付き合いください♪

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