日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載


前回まで、筆者は「『頑張りすぎ』が起きないよう、科学的に漁業を抑えることが大切」と書いてきました。


ただ、漁業を抑えようというと、漁業規制を強めようとするのは漁業を邪魔しようという悪だくみに違いない」と考える水産関係者の方が多くいらっしゃいます(問7参照)


その理由として業界の方がよく挙げるのが「一部の学者やメディア、環境団体が、科学を一部だけ都合よく切り取って、情報を誇張して『日本の漁業は乱獲放題!』と攻撃しているあんなもの嘘ばかり。信じるべきではない」という見方です。

おっしゃる通り、批判ありきの不正確な情報発信が、一部に見られます


問()では「日本の漁業界が業界への批判を避けるため、魚が減った理由を環境条件や外国、一部の企業ばかりに押し付けて『頑張りすぎ』を示す科学情報を無視してしまっている」と指摘しましたが…

全く逆で、「頑張りすぎでない」部分を無視してしまう構造です。


情報を捻じ曲げてしまえば「頑張りすぎでない」漁業にまで規制が入って、本来獲れるはずの魚が獲れなくなってしまう。漁業界の方が反発するのも当然です。


ただ、「頑張りすぎ」を批判する人も擁護する人も、どちらも悪気があるケースは稀です。

お互いが冷静さを失って、悪意なく情報を捻じ曲げてしまうケースが多い…と筆者は見ます。


大切なのは、意見の異なる者同士ができる限り冷静に情報と向き合って、意見交換して、できるだけ正確に「どの漁業が『頑張りすぎ』か」を判断することです。


・・・

太平洋クロマグロを例にご説明しましょう。
激減していて、主な理由は日本漁業の「頑張りすぎ」だとされている魚です。
参照:
http://www.jfa.maff.go.jp/j/tuna/maguro_gyogyou/attach/pdf/bluefinkanri-9.pdf

話題になるのが、「子どもの魚」と「親魚」、どちらへの「頑張りすぎ」がより問題なのか…
ということです。

一時期、よく
「日本海の産卵場で大規模な漁業会社が親魚を一網打尽に獲り始めた。その直後に資源が減り始めた。親魚の乱獲が主因で減ったのだ」
「大規模漁業のせいで資源が減ったのに、小規模な沿岸漁業が漁業規制されている。おかしい」
「大規模漁業会社は親魚を獲って儲けるため、政治力を使って水産庁とグルになり、漁業規制を逃れている」
なんて情報が拡散されていました。

(「クロマグロ 天下り」などで検索いただけると、こういう情報がたくさん見つかります)

ただ、この情報は、現状の科学とは合いません。

確かに、産卵親魚の大規模漁が始まった直後に資源が激減したのは事実です。
大規模漁の資源へのダメージについて、水産庁から詳細なデータが公表され切れていないことも間違いありません。
こうした情報だけ切り取ると、「大規模漁のせいで資源が減った」ように見えます。

ですが、
クロマグロが産卵を始めるのは3歳以上になってから。ですが、漁獲尾数の98%は2歳以下(上のリンク参照)。
「親魚の保全が足りていないかも知れない」というなら間違っていませんが、明らかにもっと問題なのは、未成魚の獲りすぎです。

そして
(問8)で書いたように、太平洋クロマグロ資源量へのダメージの約3割は、日本の小規模漁業が占めています。
漁師さんの人数が多く、クロマグロの未成魚多く獲っているからです。

「水産庁からの天下りが儲けるために…」なんて発信も見ますが、天下り団体がそこまで儲けているという認識は、筆者にはありません。
天下りの団体がここまで漁業規制に反対するのは、「金儲けのため」というより「業界の空気に従って」
(問7参照)いるだけだと見た方が適切。そう分析します。

・・・

(問8)の繰り返しになりますが、人情として「弱き(小規模漁業)を助け強き(大規模漁業)をくじくこと」を「正義」と感じるのは自然なことです。
そして、正義心と感情をくすぐる上のような情報発信は人に注目されやすい。

ですから、読者の正義心をくすぐれば、より多くの人に「頑張りすぎ」問題を伝えることができます。


ですが、感情に任せてしまえば、小規模漁業者の意見「だけ」重んじて必要以上に大規模業を貶めたり、小規模漁業に必要な管理が抜け落ちたりしかねない。

そして何より、「大規模漁業VS小規模漁業」「漁業界VS環境団体」などの無用な対立を生みかねないのです。

「頑張りすぎ」を批判する方には、無用な対立を生まないよう、より正確な情報発信をお願いしたい。
筆者は、そう考えています。

・・・

上のように「頑張りすぎ」を批判する方。
そして
(問7)のように「頑張りすぎ批判」を敵視する漁業界の方

どちらも、「自分たちが正しい、異なる意見は敵」と考えるケースが多いように、筆者には見えます。
こうなると、お互いに「敵を倒す」ことが目的になる。敵を倒そうと熱くなれば、冷静に情報と向き合えなくなってしまいます。

ですが、「頑張りすぎ」を批判する方も擁護する方も、実は「日本の漁業に元気になって欲しい」という目的意識は、ほとんどの方で共通だったりします。

大切なのは、できる限り冷静に情報と向き合って、できるだけ正確に「どの漁業が『頑張りすぎ』か」を判断すること

そのためには「誰が悪いか」ではなく、「何が問題で、どうすれば解決できるか」判断すること


「敵だから、嫌いだから」というだけで相手と向きあわなければ、お互いに判断を誤ってしまいます。