「きっと、本質は同じなんじゃないかな…」
大統領選で分断されたアメリカ国内を見ていて感じます。
僕の見てきた日本の漁業関係者の分断と、被って見えると。
たぶん今のアメリカでは
「目先だけじゃなく未来も考えると、環境や他国の人も大事にしなきゃだよ」という優等生的な考えと
「優等生(エリート)が偉そうに俺たちを縛ろうとしている」と腹を立てている大衆的な考えが、
真っ二つに分かれている。
そして優等生的な人の多い東西海岸がバイデン氏、大衆的な人の多い内陸部がトランプ氏を支持して
お互いが責め合ってしまう。
これ、日本の水産業界で
「お前らは日本の漁業を知らないくせに、偉そうに」という漁業関係者、
両者が最近までお互いを嘘つき扱いして分断してしまっていたことと、同じ構造に見えるんです。
両者が最近までお互いを嘘つき扱いして分断してしまっていたことと、同じ構造に見えるんです。
そして分断は、地球を蝕む最大の病巣だと、僕は見ています。
アメリカの政治は専門外の僕ですが、水産記者やバックパッカーの視点から、
「分断はなぜ起き」「どんな問題を起こすのか」「問題にどう対処できそうか」を
考えてみたいと思います。
「分断はなぜ起き」「どんな問題を起こすのか」「問題にどう対処できそうか」を
考えてみたいと思います。
今回は、分断を生み出す人の心理。
カギは、誰もが持っている本人なりの「善意」「絆」「正義感」。
そして、それが生み出す被害者意識です。
主な内容
1.視野を狭める“絆の罠”
2.“絆の罠”の魔術師、トランプ氏
3.一方的な「被害者」はいない
4.国の格差は縮まるもの
5.冷静さのもたらす「長い目」
主な内容
1.視野を狭める“絆の罠”
2.“絆の罠”の魔術師、トランプ氏
3.一方的な「被害者」はいない
4.国の格差は縮まるもの
5.冷静さのもたらす「長い目」
・・・・・・・
1.視野を狭める“絆の罠”
僕はちょうど、日本の水産業界で見たある分断について、まとめたところでした。
「日本の漁獲が減ったのは、乱獲のせいなのか」。
その議論の中で、意見の違う者同士で「お前らは嘘つきだ」という
攻撃合戦になってしまい、対立や問題解決の遅れが起きたことです。
「科学的に見れば魚資源が乱獲で減っている。資源を守らなきゃ漁業もできなく
なるのに、乱獲じゃなく環境要因のせいにされている」という意見の人がいて
なるのに、乱獲じゃなく環境要因のせいにされている」という意見の人がいて
「漁獲が減ったのは環境要因や魚食需要の衰退のせいなのに、欧米にかぶれた
識者に不当に乱獲呼ばわりされている。規制で邪魔される」という意見の人もいる。
どちら側の人も、漁業を守りたいという善意で言ってきました。
もちろん、冷静に考えると、魚の種類や海域で、状況は違います。
本当に乱獲なケースも、環境や魚価安がまずいケースもある。
乱獲説も、乱獲じゃない説も、見るケース次第でどちらも正しい。
裏返せば、ケース次第でどちらも間違っています。
なのに、意見の違う者同士、自分の主張に合うケースばかり掲げて、
主張に合わないケースを挙げる人に対しては、「こんな例外がある」
「知識に(細かい)ミスがある」などと指摘して攻撃してしまう。
「乱獲を隠す嘘つき」「乱獲をでっち上げる嘘つき」といがみ合ってきました。
もちろん、ある程度仕方ない部分はあります。両者が善意で動いているからです。
同じ想いを持つ仲間や、その意見が叩かれるのは辛い。
叩かれれば、「自分や仲間は弱者であり被害者だ」と感じるものです。
そして「コイツらが加害者であり敵なのだ「加害者が嘘をつくのは、裏に陰謀があるから」
みたいな、シンプルで熱のこもった話が語られやすくなります。
意見の違う者同士が分断し、相手の意見や知識を吸収しづらくなる。
お互い、仲間内の限られた知識でしか、漁獲の減った理由を考えられません。
これじゃ、良い対策も出しづらい。結果、解決策の議論は遅れてきました。
日本の漁業についての議論は、近年、意見の違う者同士が少しずつ対話できるようになり、
状況が良くなっているように見えますが…過去のような分断は、ぶり返すべきではないはずです。
日本の漁業についての議論は、近年、意見の違う者同士が少しずつ対話できるようになり、
状況が良くなっているように見えますが…過去のような分断は、ぶり返すべきではないはずです。
当然、仲間を叩かれまいという意識、人の絆というのは、確かにかけがえのないもの。
絆を大切にすること自体は、責められるべきではありません。
ただ、絆が人の視野を偏らせ、不幸を招いてしまうことが、確かにある。
そんな“絆の罠”には、注意をしておくべきでしょう。
・・・
2.“絆の罠”の魔術師、トランプ氏
トランプ氏は、人の“絆の罠”を上手く使って支持者を得たように思います。
彼は国や宗教で人をくくり、国内で少数派に当たるグループを、悪者だとまくし立てる。
「自分たちは悪者の被害者!仲間を守るため、あいつらを倒せ!!」と言えば
「わが国には改善すべきところがある」といちいち説明して改善を求めるより、
話が単純で分かりやすく、国民の(少数派でない大衆の)仲間意識や優越感、正義感を煽れます。
これは、トランプ氏が熱狂的なファンを得ていった大きな理由でしょう。
言い換えれば、意識的に“絆の罠”に国民をかけていった。
言い換えれば、意識的に“絆の罠”に国民をかけていった。
トランプ氏は、都合の悪い話を、フェイクだ陰謀だと拒絶します。
拒絶する時、あまり根拠は説明しない。でも、トランプ支持という“絆”でつながれた
熱狂的なファンたちは、トランプ氏と一緒に、都合の悪い話を拒絶していく。
熱狂的なファンたちは、トランプ氏と一緒に、都合の悪い話を拒絶していく。
「トランプ下ろしは中国の陰謀だ」という感じです。
もちろん、トランプ氏の標的となった中国などの国にも、大いに非はあります。
非を批判して改善を求めるのは、アメリカの大切な仕事でしょう。
ただ、トランプ氏お得意の誹謗中傷の多くは、客観的な根拠にも対案にも欠けていて、「前向きな批判」になっていない。
問題の「解決方法」よりも、「誰が悪いか」ばかりに焦点を当て、差別的な言動も見せます。
こういう、客観的根拠よりも感情で訴えかけるやり方は、優等生的な人からすれば、
なかなか受け入れがたい。だから大統領選で、優等生的なインテリ層の多い州では
トランプ氏が負けていったものだと思われます。
こういう、客観的根拠よりも感情で訴えかけるやり方は、優等生的な人からすれば、
なかなか受け入れがたい。だから大統領選で、優等生的なインテリ層の多い州では
トランプ氏が負けていったものだと思われます。
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3.一方的な「被害者」はいない
トランプ時代のアメリカだけではありません。
先進国を中心に多くの国で、リーダーたちが絆の罠をしかけているような状況です。
リーダー側が国民の仲間意識や正義感に付け込んで、敵役をつくり、
敵役の悪辣さを誇張し、逆に自らをヒーローのように扱わせる方法。
近年、この論法がアメリカに加え英国やフランスやドイツ、さらに新興国でも支持を伸ばしました。
日本も同様で、中韓を(恐らく実態以上に)こき下ろす人が、明らかに増えています。
この論法、第二次大戦を起こしたヒトラーやムッソリーニと近いのではないでしょうか。
例えば今、ラテンの人がアメリカの、アフリカの人がEUの、アジアの人が日本の雇用を奪っている。
先進国が努力し、他国より先に作り上げた技術やインフラが、途上国の人に利用される。
しかも、雇用を奪う側には不法滞在の移民もいるし治安も悪化する。
これだけ見れば、先進国(アメリカ、EU、日本)が被害者で、途上国の人が加害者です。
ただ、途上国の人から見れば、先進国は加害者でもあります。
先進国は長年、安い対価で途上国の人や資源を搾取し、環境や文化を壊した
部分がある(途上国の人を土人などと差別したり、途上国出身の労働者が言葉に不自由で
頼れる身寄りもないことを利用し奴隷労働をさせる者すらいる)。
頼れる身寄りもないことを利用し奴隷労働をさせる者すらいる)。
そのせいで収入が足りず衣食住が満たされないという人も、途上国には多くいる。
途上国の人からすれば、衣食住の手に入る先進国で働こうとするのは当然で、
先進国の企業側だって、今も喜んで給料の安い途上国の人をこき使っている訳です。
要するに、どの立場にも加害と被害の両面がある。
ただ、自らの加害の面を隠して被害ばかり強調する意見が、先進諸国で増えている。
この意見はフェアではありませんし、途上国の人の感情を損ね対立を招きます。
この意見はフェアではありませんし、途上国の人の感情を損ね対立を招きます。
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4.国の格差は縮まるもの
それに途上国でも教育やインフラが改善し、人や企業が育ち、お金を稼ぐ場面が出てきています。
先進国に流れていた資源(高級な食材とか電子機器とか)は、途上国にも買えるようになる。
先進国の庶民が贅沢をしづらくなり、途上国の富裕層が贅沢をする場面も出る。
例えば、日本で中国人のする爆買いであり、行動成長後の日本人が欧米でした爆買い。
爆買いされる側の身からすれば、プライドを傷つけられることもあるかも知れません。
だけど、どんなに嘆いていても、先進国と途上国の差は縮まっていくでしょう。
途上国の人は家族の生活を守る為なら移民にだってなるし、
努力してスキルを得たなら先進国の企業から仕事を奪うこともある。
すると、お金だって資源だって、途上国出身者に徐々に流れます。
すると、お金だって資源だって、途上国出身者に徐々に流れます。
この流れを止める現実的な手段がないのだとすれば、先進国の人々が意識すべきは
「いかにこの流れを止めるか」ではなく「いかに流れのスピードを調整するか」ではないでしょうか。
流れが速すぎれば先進国側の感情が治まらず、遅すぎれば途上国が許しません。
例えば「先進国の自分たちは移民の被害者、移民反対」という感情論ではなく「いかに悪質な移民を入国させず、自国の役に立つ有能な移民に来てもらえるように制度を整えるか。その制度の実施に何年かけるか」という具体的なスピードの設定と利害調整です。「いかにこの流れを止めるか」ではなく「いかに流れのスピードを調整するか」ではないでしょうか。
流れが速すぎれば先進国側の感情が治まらず、遅すぎれば途上国が許しません。
利害調整では、関係者同士が妥協し合いながら落としどころを探すほかないはずです。
先進国側に「自分は被害者、他国が加害者」の意識が強すぎては、冷静な交渉はできません。
お互いに被害者でも加害者でもあることを認め、妥協する場面も、時に必要でしょう。
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5.冷静さのもたらす「長い目」
先進国では、途上国に迫られる現状に対し、プライドを傷つけられたり、
仕事を奪われるのではと恐怖したりしている人が多くいる状態です。
この中で深く考える心の余裕をなくし、“絆の罠”にはまる人が増えたのかと想像します。
ただ、先進国と途上国の関係が悪化して交渉事が進まなかったり、
先進諸国が現状のやり方を省みず問題点を先送りしたりするなら、長い目で見て
先進国(特に富裕層でない人たち)もしっぺ返しを食う可能性が高いです。
感染症や環境悪化、貧困などの問題が解決できないからです(詳しくは次回)。
ということで、長い目で世界規模の問題を解決するために
・他国ばかりに責任を押し付けず、冷静に交渉しないといけない
・“絆の罠”をかけて被害者意識をあおる論法は冷静さを失わせ逆効果
―この2点を、トランプ氏の失脚する今こそ、先進国の僕たちが意識しすべきではないでしょうか。
ということで、長い目で世界規模の問題を解決するために
・他国ばかりに責任を押し付けず、冷静に交渉しないといけない
・“絆の罠”をかけて被害者意識をあおる論法は冷静さを失わせ逆効果
―この2点を、トランプ氏の失脚する今こそ、先進国の僕たちが意識しすべきではないでしょうか。
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