「海を守る」とかいう漠然とした言葉の意味を、おこがましくも考え続けるブログ

魚オタクの筆者が、「海を守ること」「より多くの人が海の恩恵を受けること」をテーマに、たくさんの人の知恵をつなげようというブログです。 科学的な目線、社会的な目線…色々な視点から、より多くの方と関われればと考えています。 ご賛同もご反論も、ドシドシお願いします! ブログの詳細はこちら http://take-to-enjoy-the-ocean.blogism.jp/archives/2690844.html ※あくまで個人的なブログです。所属する会社等とは無関係ですのでご注意ください。

2020年11月

海や環境を守ることは、食糧の減産や貧困を防ぐために大切です。

ただ、そのために、今の日本で決定的に足りないことがあります。
それは、海や環境の現状と、ちゃんと向き合うこと。
データを集めていない魚種や海域、漁法が多く、得たデータの分析もご都合主義だったり確度が低かったりするところがありました。
分析が明確でないせいで「魚が減っているかは詳しく分からない。だから、温暖化や獲り過ぎ、工事などが魚を減らしたかも分からない」という感じです。

これは不幸でした。環境を守るためには、「誰がどこまで海に負担をかけても大丈夫か」「誰がどれだけ責任を持って行動を改善すべきか」、話し合わなきゃいけません。そしてこういう時、人は身内を守ろうという善意から、責任を押し付け合ってしまいがちなのです。
責任を示す証拠が足りないと「海を壊したのはお前たちだ」「いや、俺たちとは限らない」と水掛け論で揉めます。

「身内に責任はないんだ」と言いたいがあまり、「他人に責任がある」みたいな情報ばかりを信じて、身内の責任を示す情報には「正しいとは限らない」「自分の専門じゃないから知らない」「こんなの陰謀だ」などと聞く耳を持てなくなる人だって少なくない。
ゆえに「誰がどれだけ責任を持てば、問題を解消できそうか」をちゃんと話し合えませんでした。

証拠が不明確だからこそ誰にも責任を求めず、揉め事を目立たせず済んできたとも言えますが…
問題が何なのか直視しなければ、何も解決できず、ただモヤモヤした揉め事と環境悪化が続く。
これで自然が壊れ続けて魚が獲れなくなれば、もっと揉めると分かっているはずなのに、です。

さらに国際法だと、データがないほど、漁業規制は強くしないといけません
国内に「データがない=獲り過ぎが証明できない=規制が緩くて良い」と思っている
方も少なくないです(し、そういう政策もありました)が、本来は逆で
「データがある=魚が十分いると証明できる=多く獲って良い」です。

漁業を守るためにはそろそろ、海の問題のリスクや対策を見える化する必要があります。
人には海のことが完璧に分からないないのですが、ある程度までは確度を上げられる。

では、誰がどうやって、海のことを解き明かせば良いのでしょうか。
筆者も専門は水産行政なので、科学調査のエキスパートではありませんが
(ご批判やご意見があれば、ぜひご指導のほどよろしくお願いします)…
今の時点で考えられる方法を整理してみます。

1番のカギは、日本漁業の独自の強みを生かすこと
この強みを生かせるような人材や予算をつけ、技術をつくりあげ、
そして海で働く色々な人の知恵を生かせるような体制も加われば、
日本は一気に世界最高峰のデータや分析ができ、世界からより尊敬されるはずです。

・こんな人向けのお話です
「普段から海や自然と関わっていて、自分なりに海や環境を守るための方法を探したい」
「海の生態系を研究する方法に興味がある」
「科学で海を分かった気になっちゃいけない、と思っている」


もくじ
1.怖さと対策の「見える化」へ
2.環境が悪化していると証明する
 2.1.自然死亡率
 2.2.小魚の生き残り率
3.環境変化の正体をつかみ対策する
 3.1.海の栄養の過不足

 3.2.潮流の変化
 3.3.温度変化
 3.4.藻場/干潟など生息環境の消失
 3.5.海洋プラスチックや環境ホルモンなどの影響
4.より多くの人で知恵を合わせる
 4.1.専門の違う科学者同士

 4.2.海で働く人たちと科学者
5.一刻も早い診断を

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1.怖さと対策の「見える化」へ

前回の通り、近い将来、環境が悪化して食糧があまり獲れなくなる危険があります。
なのに、問題があまり注目されていないのは、恐ろしさが「見える化」されていないから。
どれくらい恐ろしいことが、どれだけ高い確率で起きるか。確かに予想は難しい。
ですが、誤差があるなりに、「最悪こうなる」「楽観的に見てもこうなる」と見える化し、
「被害を減らすためにこう対策できる」と示さないと、解決に向かえません。

未来を予想するには、根拠が必要です。
現状の政府は、この記事「魚はなぜ減ったか?~誰かの“嘘”を責めちゃう前に~」の通り
「漁獲が減ったのは、魚自体が減ったせいか、漁業者が減ったせいか」
「魚が減ったとして、その理由は漁獲のせいか環境のせいか」などを調べています。

ただ、今の分析はまだまだ穴も多く、誤差が出やすいです。
問題は、単純に魚や環境のデータが十分に集められていないことだったり、
そのために必要な人材が集まっていないことだったり、
魚の専門家と環境の専門家の情報交換の場が限られていることだったりします。

科学の穴を無くす前提はこの記事にあるような、日本独自の漁業制度を生かすこと
これ次第では漁業データを細かく集められ、「どの魚がどの海域にどれだけ豊富か」の分析などに使えます

分析を上手く生かせば
「あの魚は環境の悪化で減っているから、こうやって環境を良くしよう」
「環境が良くなるまでは、漁獲をここまで減らさないとまずそうだ」
「この魚が増えそうだからもっと食用化しよう」
と考えていくことができます。

ここから、もっと具体的なことを考えてみます。

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2.環境が悪化していると証明する
まず、魚の数自体の増減や、その原因が漁獲なのかどうかを調べます。
魚などが「人間に獲られたわけじゃないのに減っている」と証明できれば、
それは獲り過ぎなどではなく環境要因のせいだと考えられます。

2.1.自然死亡率:読んで字のごとく「自然界でどれだけ個体が死ぬか」
「印をつけて放流した魚のうち、どれだけが生き残ってまた獲れるか」とか
「その魚の寿命や体重はどれだけ大きいか(大きいほど死にづらいと見なす)」
とかの方法で調べます。少人数で調べるのが大変で、更新されづらいです。
ただ、こまめに更新できれば「自然死亡率が上がってる。環境のせいか」と気づけます。
大人数の漁師さんや釣り人が「どんなサイズ(年齢)の魚が良く釣れるか」とかをチェックしてくれれば、こまめに更新しやすくなります。

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2.2.再生産成功率(RPS):「人が獲れないくらい小さい個体がどれだけ生き残るか」
「産卵した親魚の数と比べ、子ども世代の魚がどれだけ多いか」を調べて計算します。
これも、漁師さんから「何回漁に出て、何歳の魚が何匹獲れた」というようなデータが
多く集まると、計算の精度を上げられます。

(2.についてより詳しくは「魚はなぜ減ったか?」参照)

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3.環境変化の正体をつかみ対策する

3.1.海の栄養の過不足

近年、瀬戸内海が水質浄化のし過ぎで栄養不足になり、そのせいで魚が減っているという説
広く話し合われています。
昔の瀬戸内海は汚水で栄養が多すぎる状態になり、水が汚れ、赤潮(赤っぽいプランクトンが大発生して他の生物の毒などになること)の原因にもなっていたのですが、皮肉なものです。
「この種類の栄養素が足りない」「あの種類の栄養素が多すぎる」という判断と対策が必要そうです。

3.1.1.水質変化:シンプルに「どんな種類の栄養が多い/少ない」
水を汲めば薬品などで調べられます。ただし「栄養がどんな生き物に食べられるか」は見えません。

3.1.2.底質変化:「海の底にどんな質の泥や栄養素が溜まっているか」
筆者が瀬戸内の漁師さんたちに聞く限り、近年「岩などに汚れの付着が増えた」
「海底の泥の硬さが変わった」というような声が複数あります。
栄養が浄化のせいで瀬戸内海に入らなくなっているという説もありますが、もっと調べると
「海の中にある程度栄養はあるのだけれど、海底に溜まって、生物の餌にできないヘドロのようになっている」など、別の問題が分かってくるかも知れません。
瀬戸内海に限らず、底質を調べる視点も頭に置くべきでしょう。ヘドロが溜まって分解されていない場合、海底を耕うんして酸素と混ぜることで、ヘドロの分解を促すなどの対策も考えられます。

3.1.3.プランクトンの増減:「どんな種類のプランクトンが多い/少ない」
水を汲んできて顕微鏡で見れば調べられますが、調べる手間が大きいです。
人工衛星から海の写真を撮って「植物プランクトンの色素(クロロフィル)の濃い/薄い」で
調べることはできますが、海の表面しか見えないしプランクトンの種類まで分かりません。
プランクトンの種類によって「どんな栄養で育つのか」「どんな生物の餌になるか」が
変わってくるので、「どの種類のプランクトンが足りない=どんな生物の餌が足りない」は
調べておきたいところ。筆者が期待するのは「環境DNA分析」で、水を汲んで
機械にかけると「この種類の生物が多い/少ない」をあまり手間なく調べられます。
クロロフィルや海流の状態を見て「この海域、この栄養素が足りないのでは」となったり、
魚の太り具合や小魚の生残率などの値が悪く「餌が足りていないのでは」と推測されたりするとき、
環境DNA分析が使えるかも知れません。

3.1.4.餌生物や生態系自体の変化:「どの生物の餌が足りないか」
プラクトンの種類によって「どんな生物の餌になるか」が変わるので、
「海にいるプランクトンの種類が合わないので餌不足」という魚が出てくる可能性もあります。
では、どの魚種がどんな餌を求めているのか。
調べるために、安定同位体比分析というものが注目を浴びます。
難しそうな分析方法ですが、ざっくり言うと、生物の体を調べ「どんな餌を多く食べているか」
「自然界の食う/食われるの関係の中でどれだけ上位にいるか」を大まかに見られるものです。
例えば「このプランクトンが少ない年には別のあのプランクトンを餌にする」とか
「この季節にあの生物を多く食べる」
「この海域の生物を食べているようだ」が見える。
こういう研究を続けていけば「あのプランクトンが足りないせいで魚体が太らない」
「この魚が増えたから、餌を奪い合っている別の魚が減った」
「今までと別の海域に回遊していそうだ」などが徐々に明らかにできそうです。

これらの調査を増やせば「窒素とリンが下水で処理されて足りなくなっているのでは」
「ケイ素がこの海域に少ないのは、ダムで落ち葉がせき止められ海に流れないせいでは」
などを考え、「この栄養素を海に流そう」「この栄養素は赤潮を増やしちゃうので処理しよう」
「あの魚を増やすために、餌になる小魚を守ろう」などの対策が打ちやすくなるはずです。

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3.2.潮流の変化
温暖化などで水の流れが変わり、生物に影響する可能性があります。
琵琶湖では、すでに流れの変化とそれによる酸素不足も明らかになっています。
流れが変わることで、栄養豊かな深い海の水が表層まで今まで通り上がらなくなるなどで、
表層に栄養の過不足につながり、プランクトンに影響する可能性もあります。
深い海から表層までの海水の流れも監視し、それと水中の酸素濃度や、
プランクトン量の分析(クロロフィルや環境DNAの研究)を
組み合わせれば「この海域で栄養不足が起きている」などを早めに察知できるかもしれません。

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3.3.温度変化(の生物への影響)
温暖化で水温が上がれば、もちろん、海の生物の多くは、自分好みの水温を求めて別の海域に
移動すると考えられます。実際、本来温かい海にいた魚が近年、北日本で見つかり始めました。
それはブリやサワラであったり、イセエビやハタ、ヒョウモンダコであったりです。
アイゴやイスズミが高温で活性化して海藻を食い荒らし、藻場が減っているとの報告もあります。
またスルメの漁獲は5年前から7割減、サンマは12年前から9割減っていて、日本政府の研究者から「もともと水温などの環境要因で母数が激減していたところに、漁業規制の不足で追い打ちをかけてしまった」という分析も聞かれます。
サンゴの大量死も温室効果ガスによる水温上昇や海の酸性化が関係しているとされます。
まずは漁網などにつけたセンサーで水温の観察を続けつつ
「どの海域の水温がどう変わり、どう魚種が変わったか」見比べるのが大切です。
加えて、下のような研究も役立ちそうです。

3.3.1.水温と「小魚の生き残り率」の関係
魚の卵や子どもは、一般的に水温変化に弱いとされています。
2.2で紹介した「卵や仔魚の生き残り率(RPS)」と水温の変化を見比べると
「水温が上がって以降、生き残り率が下がった」などの傾向が見えてくる可能性があります。
実際、マイワシ太平洋系群では、1990年ごろの水温の高い時期に生き残り率が極端に低かったなどの分析結果が出ています。

3.3.2.AI漁場予測による水温変動の影響予測
今、人工知能(AI)によって「魚がどの海域に集まりそうか」を予測して、漁獲の効率を上げる
技術が複数の企業で開発されています。予測の根拠は、主に水温や気象条件、その魚の資源量。
裏返せば「水温がこれだけ上がれば、魚の分布はこれだけ北上する」などの予想もできるように
なっていくと期待できます。

こうして、水温変化により「これだけ小魚が死んだ」「日本の魚が別の国に北上してしまいそう」と
具体的に見えるようになってくれば「代わりに、温暖化で増える魚を予測してろう」だとか
「二酸化炭素を出す国に問題を伝えて対処してもらおう」と対応策も立てやすくなります。
同時に、例えば、再生可能エネルギーの可能性(将来技術がここまで発展しそう、でもこれしか技術が育たない可能性もある…など)なども見える化していき、具体的に誰がどれだけの対策をすれば
温暖化の被害を最小限にとどめられるかなども考えたいところです。

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3.4.藻場/干潟など生息環境の消失
日本の海岸線は埋め立てなどによって自然のままの姿を保っていない割合が高いです。
これによって特に、仔魚・稚魚などが育つ上で大切な藻場や干潟が減っています
藻場や干潟の減少と、2.2で紹介した「卵や仔魚の生き残り率(RPS)」の関係を
見れば「藻場が減って、生き残り率が下がった」「干潟が減っていない地域は生き残りが良い」
などの傾向が見えてくる可能性があります。
こうした状況が見えてくれば「藻場や干潟が足りないから人工的につくろう」といった対策も考えやすくなります。

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3.5.海洋プラスチックや環境ホルモンなどの影響
2050年には海の魚の量を追いこすなどと言われている海洋プラスチックごみ。
有毒な環境ホルモンを吸着したプラスチックが魚介類を通じて人体に入る
プラスチックを食べた生物が消化不良を起こすなどの危険が指摘されています。
プラごみ由来に限らず、環境ホルモンのせいでシャチなどが子供を産みづらくなっているという指摘もあります。
まだまだ研究途上ですが、プラスチックを食べてしまった生物の成長率の悪さや
有害物質の含有レベルなどを調べつつ、プラスチックや環境ホルモンの使用を減らしたり
プラスチックを生分解性にしたりするなどの工夫を続けていく必要がありそうです。

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4.より多くの人で知恵を合わせる

4.1.専門の違う科学者同士

3.1~5.のデータも調べておきつつ、2.の方法で「どの魚種が環境要因で減った」と
証明すれば「どんな環境悪化が起きた時、この魚種が減った」と解き明かしやすくなります。

例えば
「去年、海に0歳魚は多かったし漁獲も少なかった。なのに今年は1歳魚が少ない」
「ということは、去年は漁獲でなく環境のせいで、0歳魚が多く死んだのでは」
「去年の環境条件を見ると、0歳魚の生息場のプランクトンが少なかったと分かった」
…というように、魚と環境の関係が見えやすくなるはずです。

この時、大事なのは分野の違う科学者同士の交流です。環境要因それぞれの専門家と魚の専門家、
それぞれが一緒に話し合わないと、多くの種類の環境要因を同時に考慮できません。
さらに言えば、各国が「自国の海のデータしか多く集められない」ということも多いので、より多くの国の科学者同士で交流できる体制も必要です。そういう意味でも、国と国の分断は極力埋める必要があります。

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4.2.海で働く人たちと科学者
そして、海を知る基礎として何より大切なのが、漁師さんの知恵です。
3.1.2のように、地元の海を日々見続けている漁師さんだからこそ
「海底の泥がおかしい」などの様子に誰よりも敏感に気が付けます。

また2.1や2.2、この過去記事のように、日本の漁業関係者が協力できれば、
かなり精度の高い魚のデータが集められます
(というか、漁師さんたちからの情報がないと、データが獲れないとも言えます。
これからは海での養殖が増えそうなので、漁業のニーズが下がるなんて言われていますが、
漁業がなくなると天然魚が食べられなくなってしまったり漁村の文化が途絶えてしまったりする上、データまで得られなくなってしまうのです)。

4.1のような感じで異なる分野同士の科学者が情報交換できるチームをつくり、
このチームに対して、漁師さんが海や魚に異常を感じた時に、漁協や研究機関、行政辺りに
“110番”できるような体制がつくれると理想的でしょう。
このチームの中に、漁師さんだけでなく、ダイビングや遊漁などで海や生物と関わっている人たちの
知恵も入れていけば、より詳細な情報が集まってくるはずです。

海や資源の科学者に対して、漁業関係者が「獲り過ぎを指摘してくる敵」とか「机上の空論」と
怒ってしまうケースも、少なからず、今の日本にはあります。
ただ、海や魚や漁業を未来に残したい気持ちは、筆者が取材する限り、漁師さんも科学者も一緒。
むしろ、上のように、「魚が減ったのは獲り過ぎのせいではない」「魚を増やすためにこんな環境改善策ができる」と一緒になって考えることができます。

科学者は「怒られたからといって、話し合いを諦めない」、
漁業関係者は「気に入らない意見を聞いても、極力怒らず知恵を出し合う」。
これができれば両者は「海の健康状態を一緒に解き明かすパートナー」になれるはずです。

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5.一刻も早い診断を

こういう「海の健康診断」は、できるだけ急いで、数年以内に進めるべきです。
なぜなら、気候変動やプラスチックごみ問題などは、年を追うほど悪化しかねず、
そして、悪化したものを簡単に元に戻せないからです。
「何年後までにこれだけの対策をしなければ」という目標を、早く決める必要があります。

さて、今、日本政府は漁業規制を強めて水産資源を回復させようとしています。
魚はなぜ減ったか?」などの通り、獲り過ぎと見られる魚種は少なくないのですが、
一方で、明らかに獲り過ぎでないのに減ったという魚もいます。

このままだと、「漁業規制しても増えない魚」だって現れるでしょうし、
「環境が悪くなったせいで、今まで以上に漁業規制しないと守れない魚」も出るでしょう。
逆にどういう魚がこうした状況にあるのかを見極められれば、
規制が必要以上に強まって漁業現場が苦しんだり、必要なはずの規制にすら反対運動が起きたりという不幸を防ぎながら、資源や漁獲を回復できるはずです。

まずは、こうした「海の健康診断」に人手や予算をつけることと考えられます。
特に、すでに海や魚に関わる仕事をしている人は、4.2.のような情報発信を、
海や魚に興味のある若者は、「自分ならどう海の健康診断に絡めそうか」という自問自答を…
ぜひ進めてみて欲しいとお願いして、今回の締めとさせていただきます。

「いや、ヘタしたら命かかってるし(←HEROのキムタク風)」
今の世界を見ていて、思わずつぶやいてしまいそうです。

どうも、近年の世界では、環境問題や貧困の解消を訴える“優等生”的な人と、そこに反感を持つ人が分断されがちだからです。
反感は「偉そうだし、うさん臭い」
「優等生が正義ぶって対策すると、俺たちが経済的に損するんだよ」というような感じ。

先進国のリーダーからも「環境対策とかを重んじる人たちが力を持つと、日本やアメリカの経済が規制されるし中国が得をする。中国のための陰謀を止めろ」と、人の分断をあおる声が目につきます。
確かに、経済や中国の問題を心配するのも大切ですが…
「ちょっと乱暴すぎない?」とツッコまざるを得ません。

そもそも、環境問題や貧困の解消って、「正義」の象徴みたいに思われがちですが…本当はそれだけじゃない。
環境問題や貧困にちゃんとした対策をしなければ、世界の人口が増え続ける中、食糧などの資源の取り合いが起きかねない
筆者自身も、取材や旅を通し、この危険を痛感しています。

僕ら日本の庶民も「明日食べる物があるか、身内が暴力にさらされないか」に怯えることになりかねない。
「またまた大げさな」とか言う方も多いかも知れませんが…無視できない確率でそうなると思いますし、近い訴えは他の人からも出てきています。

環境や貧困層を守ることは「正義」ごっこというより、未来の社会や経済を守る「生存戦略」ということです。
「優等生の“正義”は(目先の)経済の敵」という一方的な見方ではなく「目の前の問題(経済や敵対国の増長)を疎かにしちゃいけないけど、未来の問題(環境問題や貧困の対策)も考えよう」という広い視野が必要なはずです。

最近まで、自分たちの生活を守る手段としては
「敵役を倒す(売れる商品をつくってライバル企業を出し抜く、他国に経済戦争や軍事で勝つ)」
競争が主でした。でも、競争の副作用で環境問題や貧困が問題となった今、
「世界で協力して問題を解消する」共生と共創が、より大切になってきています。

もし、敵役たる国や人を、感情として好きになれないとしても…
「嫌いだから無視、攻撃」で、相手との分断を深めるべきではない。
分断を繰り返していては、戦争の愚すらも、繰り返しかねない。
「嫌いでも、必要な場面では耳を貸し協力する」という態度が、
若者が未来を生きるため、命をつなぐためには重要になる。そう筆者は訴えます。

・主な内容
1.僕たちが受け得る痛み
 1.1.食えないから奪い合う
 1.2.環境問題と食糧不足
 1.3.国境を超える貧困
2.痛みの大きさ×不確実性
3.仲間を守りたいから、敵役とも組む

・こんな人向けのお話です
「環境問題や貧困への対策がなぜ必要か分からない」
「環境問題や貧困に対策が必要だと思うけど、必要性を他人にどう説明すればいいか分からない」
「国連のSDGsに興味がある」

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1.僕たちが受ける痛み

1.1.食えないから奪い合う

そもそも荒廃した社会ってどんな感じだと思いますか?
筆者が意味しているのは、住民の多数派が
「食べる物がなくならないか、身内が暴力にさらされないか」に怯える社会です。

実際、そういう社会は今もあります。筆者の行った中では、南アフリカのスラム街。
警察と比べて強盗が多すぎて、金品を持って出歩くこともできません。
流しのタクシーに乗るなら「さらわれるかも」と怯えないといけません。
警備員とオリのついた建物でないと、安心して泊まることもできません。
筆者はいつ襲われても良いように、ダミーの財布や携帯を持って出歩いていました。
洒落にならない略奪の世界です。リアル北斗の拳です(いや、筆者は読者世代じゃないですけど)。
似た状況の街は、ベネズエラのカラカスとか、世界に点在しているようです。

こういう社会がなぜ生まれるのか。東南アジアなども含め、筆者の行ったスラム街では
貧困層に「教育がない→仕事がない→衣食住が賄えない→罪を犯してでも食いぶちを稼ぐ」
というスパイラルがあると、共通して聞かれました。
違法漁業について調べた時も多く聞かれたのですが
本当は犯罪なんかしたくなくても、自分や家族が生きるため仕方なく…というパターンです。

こういう話を聞くと、多くの日本人は「教育や働き口や食糧の足りない途上国の話」
「他人事だよ」と感じるでしょう。今の時点ではその通りです。

でも、近い将来、こういう事態は僕たちの身に降りかかりかねません。

・・・

1.2.環境問題と食糧不足

先進国でも、災害などで食糧の不足した時には暴動や略奪が起きる…というニュースを、観たことのある人は多いでしょう。
欧米の都市の分析でも、失業率が高いとか貧困率が高い、食いぶちを稼げない人が多いほど、犯罪発生率が高いということが指摘されています。
人は職や衣食住、特に食がなければ生活できないのです。

そして、食糧不足は現実的な恐怖になりつつあります。
まず、日本周辺では魚が獲れなくなっています。こういうことが、もっと深刻化する危険がある。
魚の獲れない理由でよく挙がるのが「漁師さんが減った」「獲り過ぎで資源が減った」。
確かにこれらは大きな問題なのですが、それだけなら、食糧不足の危険は強くありません。
漁師さんを増やしたり獲り過ぎを止めたりは、後からある程度できるからです。
でも、そうそう後戻りできないことが、恐らく、もう起き始めている。

後戻りできないこととは、温暖化や海の酸性化、プラスチックごみ問題などです。
プラごみの問題が海の生態系に与える影響はまだまだ研究途上ですが、温暖化の影響はもう出ています。
研究者に聞いても、筆者の経験と照らしても、近年は温暖化で魚の生息域が変わって
造礁サンゴは死んでいる数十年以内に、サンゴが地球から9割消える可能性すらある)。
水温が変わったせいで深海から表層への栄養分の湧昇が止まれば、魚の餌となるプランクトンが
足りなくなってしまうという恐れもある。
さらにスルメイカの減少の引き金として、水温悪化から卵や仔稚魚の大量死があったという分析もある。

「温暖化なんて1~2度の話でしょ?一部の生き物が絶滅するとしても人の生活には関係ない」
なんて、けっこう高学歴な層から聞くことも多いんですが…とんでもないです。
哺乳類のような一部の生き物以外は、体温を自分で調整できない。
つまり「温度が2度上がる=体温が2度上がる」です。
平熱36度の人の体温が常時38度まで上がってしまったら、長生きできるでしょうか?

実際、スルメの漁獲は5年前から7割減、サンマは12年前から9割減。
どちらも獲り過ぎで資源が減っているという説はありますが、日本政府の研究者からよく聞かれる(そして筆者自身も最も的確だと考える)分析は「もともと水温などの環境要因で母数が激減していたところに、漁業規制の不足で追い打ちをかけてしまった」というもの。
漁業分野だけでも、2050年までに年間1兆円以上の損失が生まれるという予測があります。
それにサンゴ礁が消えるだけでも、百万人単位の人の働き口や食糧が脅かされ
それによる経済的な損失は約9兆円という試算もあります。2020.1-2

しかも、温暖化の恐ろしさは海のことだけでない。1番の危険は農業の不安定化です。
単に暑くなるだけでなく、気候が変わることで風や海流、雨の降り方が変わって、
土地も水没で減る。日本を含め、食糧不足が起きることも、現実味を増しています。

もちろん、温暖化でこれまで食糧の育たなかった寒い場所での生産は増えるかも知れません。
現に、ロシアの冷たい海には、これまで来なかったスルメが温暖化のせいで上がってきています。
「温暖化しても、ロシアで農業が育つから大丈夫」という人もいます。
ただ、今の時点で、十分な食糧が育つ保証もなければ、準備(漁港設備をつくったり土を耕したり)を整える数年間に食糧をどう確保するかのプランも共有されていない。もう少し対策が必要でしょう。

完全に温暖化を止めることができないとしても、少しでも進行を遅らせれば、
生物側に暑さに適応した遺伝子が現れて生き残ったり、人間側が対応を準備したり、
そういうを時間を稼げる期待があります。

・・・

1.3.国境を超える貧困

温暖化や食糧不足が深刻化するなら、たぶん、最初に大きな痛みを食うのは熱帯の国です。
すでに暑い環境がさらに暑くなる。するとサンゴのように「暑さに強いとされてきた生物」ですら、
過去に体験していないほどの暑さにさらされ、死んでいく。
例えばサンゴ礁が消えれば、そこで育つ魚も減り、漁獲に響きます。

しかも、熱帯には、教育や雇用の行き届いていない途上国が多いです。
すると、1.1のようなスラム化が起きやすい。そこで職業や衣食住を得られなかった人は、
移民となり都市部や先進国に生きる道を求めるでしょう。

今、先進国の人が移民を一方的に批判する流れもありますが、もう少し相手目線が必要でしょう。
途上国の貧困層の人の目線からすれば、「先進国が自分たちを搾取したせいで貧困が起きた」という
意識もありますし、そもそも家族の生活を守らなければいけないとなれば、仕事が多く給料も高く
衣食住の満たせそうな国の都市へと、(不法入国など)無理をしても移り住むものです。
これが避けられないのは、アメリカやEUに移民が入り続けている現状を見れば明らか。

そしてお金のある国の都市になら一定数のお金持ちがいます。
余裕のない貧困層が富める人を目の当たりにすれば、腹も立つし奪ってやりたくもなるのでしょう。
僕の旅した中で治安や雰囲気が極端に悪いと感じた街は、どこも貧富の差が激しい都市部でした。

つまり、温暖化や食糧不足の痛みは「途上国から先進国、貧困層から富裕層」と伝わっていく危険が強い。これは、上のような経験から、筆者が強く訴えたいことです。
島国の日本はある程度、移民が入りづらいかも知れませんが…食糧が不足して値上がりすれば、人口の割に食糧生産の少ない国だけに、食べ物に苦労しやすくなります

もちろん、実際にどれだけの不足や値上がりが起きるか、予測は難しいです。今のところは「30年後に穀物価格が2~3割上がるかも」くらいの予測ですが、そうなった時にどの地域が大きな被害を受けるか、その地域にどれだけの貧困層がいるか、誰と誰がどれだけの規模で揉めるか…などによって、実際に起きる被害は変わります。

間違いなく言えるのは、このままなら1日3食摂れない、食べるのに手いっぱいで教育が受けられない…そんな人の割合が、世界に増えるだろうということ。
さらに行き過ぎれば「富裕層の警備員つきの住宅街以外、暴力に怯えながら生きる」みたいな地域だって出てくるかもしれません。
資源の奪い合いと感情的な分断が国家間の戦いに発展したり、口減らし(人口抑制、安楽死、生物兵器などもっと酷いことも…)が現実になったりする可能性も否定できない。

裏返せば、環境問題や貧困を解決することは、僕たち自身の生活を守ることにつながります。
だからこそ、ある程度傷の浅い今のうちから環境や貧困と真剣に向き合う必要がある。
国連がSDGs(持続可能な開発目標)で環境問題や貧困、教育格差をなくそうとする意義は、こういうところにあるのです。

・・・・・・・

2.痛みの大きさ×不確実性

一方で、「環境問題や貧困を解消すると損をする」という声も多くあります。

実際、環境問題や貧困に対策すると「目先」の経済には副作用があります。
例えば、対策の費用を賄うために税金を高くしたり、環境を壊すビジネスや貧困層を安く長時間
使うビジネスを制限したりしなければいけないかもしれない。
すると、企業の出費が増えるから、経済がしばらく鈍る。
これも行き過ぎたら怖いので、「(目先の)経済を壊すな」という視点が、時に大切です。

ただ、目先への注目が行き過ぎていないでしょうか。
アメリカでは、教育水準やSDGs的な意識の高い“優等生的な”州に、そうでない“大衆的な”州が反感を持ち「環境問題はフェイクニュースだ」「アメリカ経済の邪魔をする途上国からの移民は追い出せ」と叫ぶ。そして、国内が分断されているというフシがあります。
それどころか「温暖化対策をしてアメリカの経済が鈍れば、中国が得をする」
「グレタ氏の訴える温暖化対策は、中国を利するための陰謀」的に、
人の敵対心を煽り、分断させるような発信がネット上などで視聴回数を稼いでいます。

かつての日本でも、優等生的な「海の生き物の獲り過ぎを科学的に防ごう」という漁業改革論に対して、漁業関係者の間に「自分たちのやり方を批判する気か」「漁業者を経済的に追い詰める気か」との空気が生まれ、両者が分断し、資源の減少や対策の遅れ、漁獲の衰退につながったきらいがあります。

人の敵対心を煽り、視点を目先の問題(向こう数カ月の経済、中国など)に縛り付ければ、未来の問題(環境や貧困、それによる社会と経済の混乱)を考える発想を奪ってしまう。
それどころか、未来の問題を訴える人間への攻撃すら始まって、対策をつぶしてしまう
(さらに万一、大規模な戦争になんてなったら、農場や漁場、資源を余計につぶし合います)。

環境問題や貧困が僕たちに直接効いてくるのは未来のことで、どこまで高い確率でどれだけ大変なことが起きるのか、言い切れはしません。
それに特定の国だけに原因を求めて敵役にすることもできない。
ゆえに、人の感情にリアルに響きづらいし「予測なんて当てにならん」と軽んじられがちなのですが…

そもそも、温度の変化で気象条件や生物種の1つひとつがどう反応するか、結果として人間社会にどんな影響が出るかというのは、関わる要素が多すぎて確実な未来予測をするなんてできない。
不確実なのは前提として、その中で「現実的な未来予測は」「最悪の事態を避けるには」と考えるしかありません。

未来の問題が現実になった場合、1.のように大きな痛みがあるのですから、「予測が不確実だから」というのは、対策しない理由として不十分です。
まして問題提起自体を「陰謀」だとか「敵」だとか断じてしまうとしたら危険でしょう。

敵視までされない場面でも、環境や貧困について語る人が「正義だ、綺麗事だ、意識高い系だ、うさん臭い」と引かれてしまいがちな空気はないでしょうか。
本来、大事なのは、目先と未来、両方を頭に入れて「どうすれば目先の問題を極力起こさず、未来の問題も解決できるか」という話し合いです。「誰が敵なのか、誰がうさん臭いか」という一方的な視点ばかりでは、話し合いが進まなくなってしまいます。

・・・・・・・

3.仲間を守りたいから、敵役とも組む

最近まで、人々の生活を豊かにして守っていくため
「敵役を倒す(売れる商品をつくってライバル企業を出し抜く、他国に経済戦争や軍事で勝つ)」
競争が大切でした。その感覚は今も根強いから、敵役を強く攻撃できる人が評価される。
でも、競争の副作用で環境問題や貧困が生まれ、僕たちを脅かしつつあります。敵役とも
お互いが死なないために攻撃を止める「共生」、そして課題を共有して一緒に解決する「共創」、
この2つをもう少し大切にする必要が出てきています。

環境問題にしろ貧困にしろ、多くの国や人が原因になっているので、
多くの国や人が協力しないと解決はできません。

現状、人と人・国と国の分断が進んでしまったことで、
多くの国は対策したフリと責任の押し付け合いをしています。温暖化1つ取っても
先進国は「ウチは(充分ではないけど表面上)対策している。中国やインドの発展が悪い」、
途上国は「長年大量の二酸化炭素を出し続けてきたのは先進国。厳しい対策は先進国の仕事」、
しまいにはトランプ氏が無根拠に「温暖化は嘘だ、アメリカ経済は自重しない」…ですから。

本当は、世界中の人が仲良くなって「私たちも頑張って対策するよ!」と言い合えるのが
理想なのかもしれませんが…それは簡単じゃありません。
人は身内を守ろうという善意で、他の国や集団に責任をかぶせてしまうクセを持つからです。
温暖化の責任を他国に、魚の減った責任を他産業に…と、身内以外を敵役にして責める。
こればかりは人情として、ある程度、やむを得ないです。

敵役の国や人を好きになるのは難しいですし、無理してそうする必要もないでしょう
他者や権力への不満や疑念は、持ち方次第でむしろ視野を広げてくれることもありますしね)。
ただ、環境問題でも貧困でも、痛みを被るのはお互い様。嫌いな者同士でも協調して、対処する場面は必要です。
そろそろ「嫌いなヤツの話は聞きたくない、協力しない」という感情任せの態度から卒業し、
「彼らは嫌いだけど、彼らは彼らなりに身内を守らなきゃいけないんだよな」と受け止め、嫌いな相手の意見も聞きながら対策をする時期のはずです。

多くの人で意見や知識を出し合えれば、「最悪、ここまで気温が上がってこんな悪影響が出る」
「魚を獲る量を減らさないとここまで海の生態系に影響し得る」
「最悪の状況になる可能性はこれくらい」「どの国の責任はどれくらい大きい」などと
客観的に(=敵役の知識や意見も採り入れつつ)考えて、
「ウチらはここまで自重するから、おたくはこれだけ頑張って」と責任分担できるし、
「頑張ってくれた国には貿易とかで特典をあげる」というギブ&テイクもできます。

こういう責任分担をして、足並みを揃えて問題解決する体制は、環境問題や貧困だけでなく、
感染症の拡大を防ぐことにもつながり、未来への備えとなります。

特に、未来の社会を生きなければいけない若者世代は、「共生」「共創」「責任分担」を
意識すべき時にきている。そう筆者は訴えます。

「きっと、本質は同じなんじゃないかな…」

大統領選で分断されたアメリカ国内を見ていて感じます。
僕の見てきた日本の漁業関係者の分断と、被って見えると。

たぶん今のアメリカでは
「目先だけじゃなく未来も考えると、環境や他国の人も大事にしなきゃだよ」という優等生的な考えと
「優等生(エリート)が偉そうに俺たちを縛ろうとしている」と腹を立てている大衆的な考えが、
真っ二つに分かれている。
そして優等生的な人の多い東西海岸がバイデン氏、大衆的な人の多い内陸部がトランプ氏を支持して
お互いが責め合ってしまう。

これ、日本の水産業界で
「お前らは日本の漁業を知らないくせに、偉そうに」という漁業関係者
両者が最近までお互いを嘘つき扱いして分断してしまっていたことと、同じ構造に見えるんです。

そして分断は、地球を蝕む最大の病巣だと、僕は見ています。
アメリカの政治は専門外の僕ですが、水産記者やバックパッカーの視点から、
「分断はなぜ起き」「どんな問題を起こすのか」「問題にどう対処できそうか」を
考えてみたいと思います。

今回は、分断を生み出す人の心理。
カギは、誰もが持っている本人なりの「善意」「絆」「正義感」。
そして、それが生み出す被害者意識です。

主な内容
1.視野を狭める“絆の罠”
2.“絆の罠”の魔術師、トランプ氏
3.一方的な「被害者」はいない
4.国の格差は縮まるもの
5.冷静さのもたらす「長い目」

・・・・・・・

1.視野を狭める“絆の罠”


「日本の漁獲が減ったのは、乱獲のせいなのか」。
その議論の中で、意見の違う者同士で「お前らは嘘つきだ」という
攻撃合戦になってしまい、対立や問題解決の遅れが起きたことです。

「科学的に見れば魚資源が乱獲で減っている。資源を守らなきゃ漁業もできなく
なるのに、乱獲じゃなく環境要因のせいにされている」という意見の人がいて
「漁獲が減ったのは環境要因や魚食需要の衰退のせいなのに、欧米にかぶれた
識者に不当に乱獲呼ばわりされている。規制で邪魔される」という意見の人もいる。
どちら側の人も、漁業を守りたいという善意で言ってきました。

もちろん、冷静に考えると、魚の種類や海域で、状況は違います。
本当に乱獲なケースも、環境や魚価安がまずいケースもある。
乱獲説も、乱獲じゃない説も、見るケース次第でどちらも正しい。
裏返せば、ケース次第でどちらも間違っています。

なのに、意見の違う者同士、自分の主張に合うケースばかり掲げて、
主張に合わないケースを挙げる人に対しては、「こんな例外がある」
「知識に(細かい)ミスがある」などと指摘して攻撃してしまう。
「乱獲を隠す嘘つき」「乱獲をでっち上げる嘘つき」といがみ合ってきました。

もちろん、ある程度仕方ない部分はあります。両者が善意で動いているからです。
同じ想いを持つ仲間や、その意見が叩かれるのは辛い。
叩かれれば、「自分や仲間は弱者であり被害者だ」と感じるものです。

そして「コイツらが加害者であり敵なのだ「加害者が嘘をつくのは、裏に陰謀があるから」
みたいな、シンプルで熱のこもった話が語られやすくなります。
意見の違う者同士が分断し、相手の意見や知識を吸収しづらくなる。
お互い、仲間内の限られた知識でしか、漁獲の減った理由を考えられません。
これじゃ、良い対策も出しづらい。結果、解決策の議論は遅れてきました。

日本の漁業についての議論は、近年、意見の違う者同士が少しずつ対話できるようになり、
状況が良くなっているように見えますが…過去のような分断は、ぶり返すべきではないはずです。

当然、仲間を叩かれまいという意識、人の絆というのは、確かにかけがえのないもの。
絆を大切にすること自体は、責められるべきではありません。
ただ、絆が人の視野を偏らせ、不幸を招いてしまうことが、確かにある。
そんな“絆の罠”には、注意をしておくべきでしょう。

・・・

2.“絆の罠”の魔術師、トランプ氏

トランプ氏は、人の“絆の罠”を上手く使って支持者を得たように思います。

彼は国や宗教で人をくくり、国内で少数派に当たるグループを、悪者だとまくし立てる。
「自分たちは悪者の被害者!仲間を守るため、あいつらを倒せ!!」と言えば
「わが国には改善すべきところがある」といちいち説明して改善を求めるより、
話が単純で分かりやすく、国民の(少数派でない大衆の)仲間意識や優越感、正義感を煽れます。
これは、トランプ氏が熱狂的なファンを得ていった大きな理由でしょう。
言い換えれば、意識的に“絆の罠”に国民をかけていった。

トランプ氏は、都合の悪い話を、フェイクだ陰謀だと拒絶します。
拒絶する時、あまり根拠は説明しない。でも、トランプ支持という“絆”でつながれた
熱狂的なファンたちは、トランプ氏と一緒に、都合の悪い話を拒絶していく。
「トランプ下ろしは中国の陰謀だ」という感じです。
 
もちろん、トランプ氏の標的となった中国などの国にも、大いに非はあります。
非を批判して改善を求めるのは、アメリカの大切な仕事でしょう。
ただ、トランプ氏お得意の誹謗中傷の多くは、客観的な根拠にも対案にも欠けていて、「前向きな批判」になっていない。
問題の「解決方法」よりも、「誰が悪いか」ばかりに焦点を当て、差別的な言動も見せます。

こういう、客観的根拠よりも感情で訴えかけるやり方は、優等生的な人からすれば、
なかなか受け入れがたい。だから大統領選で、優等生的なインテリ層の多い州では
トランプ氏が負けていったものだと思われます。

・・・

3.一方的な「被害者」はいない

トランプ時代のアメリカだけではありません。
先進国を中心に多くの国で、リーダーたちが絆の罠をしかけているような状況です。

リーダー側が国民の仲間意識や正義感に付け込んで、敵役をつくり、
敵役の悪辣さを誇張し、逆に自らをヒーローのように扱わせる方法。
近年、この論法がアメリカに加え英国やフランスやドイツ、さらに新興国でも支持を伸ばしました。
日本も同様で、中韓を(恐らく実態以上に)こき下ろす人が、明らかに増えています。
この論法、第二次大戦を起こしたヒトラーやムッソリーニと近いのではないでしょうか。

例えば今、ラテンの人がアメリカの、アフリカの人がEUの、アジアの人が日本の雇用を奪っている。
先進国が努力し、他国より先に作り上げた技術やインフラが、途上国の人に利用される。
しかも、雇用を奪う側には不法滞在の移民もいるし治安も悪化する。
これだけ見れば、先進国(アメリカ、EU、日本)が被害者で、途上国の人が加害者です。

ただ、途上国の人から見れば、先進国は加害者でもあります。
先進国は長年、安い対価で途上国の人や資源を搾取し、環境や文化を壊した
部分がある(途上国の人を土人などと差別したり、途上国出身の労働者が言葉に不自由で
頼れる身寄りもないことを利用し奴隷労働をさせる者すらいる)。
そのせいで収入が足りず衣食住が満たされないという人も、途上国には多くいる。
途上国の人からすれば、衣食住の手に入る先進国で働こうとするのは当然で、
先進国の企業側だって、今も喜んで給料の安い途上国の人をこき使っている訳です。

要するに、どの立場にも加害と被害の両面がある。
ただ、自らの加害の面を隠して被害ばかり強調する意見が、先進諸国で増えている。
この意見はフェアではありませんし、途上国の人の感情を損ね対立を招きます。

・・・

4.国の格差は縮まるもの

それに途上国でも教育やインフラが改善し、人や企業が育ち、お金を稼ぐ場面が出てきています。
先進国に流れていた資源(高級な食材とか電子機器とか)は、途上国にも買えるようになる。
先進国の庶民が贅沢をしづらくなり、途上国の富裕層が贅沢をする場面も出る。
例えば、日本で中国人のする爆買いであり、行動成長後の日本人が欧米でした爆買い。
爆買いされる側の身からすれば、プライドを傷つけられることもあるかも知れません。

だけど、どんなに嘆いていても、先進国と途上国の差は縮まっていくでしょう。
途上国の人は家族の生活を守る為なら移民にだってなるし、
努力してスキルを得たなら先進国の企業から仕事を奪うこともある。
すると、お金だって資源だって、途上国出身者に徐々に流れます。

この流れを止める現実的な手段がないのだとすれば、先進国の人々が意識すべきは
「いかにこの流れを止めるか」ではなく「いかに流れのスピードを調整するか」ではないでしょうか。
流れが速すぎれば先進国側の感情が治まらず、遅すぎれば途上国が許しません。
例えば「先進国の自分たちは移民の被害者、移民反対」という感情論ではなく「いかに悪質な移民を入国させず、自国の役に立つ有能な移民に来てもらえるように制度を整えるか。その制度の実施に何年かけるか」という具体的なスピードの設定と利害調整です。

利害調整では、関係者同士が妥協し合いながら落としどころを探すほかないはずです。
先進国側に「自分は被害者、他国が加害者」の意識が強すぎては、冷静な交渉はできません。
お互いに被害者でも加害者でもあることを認め、妥協する場面も、時に必要でしょう。

・・・

5.冷静さのもたらす「長い目」

先進国では、途上国に迫られる現状に対し、プライドを傷つけられたり、
仕事を奪われるのではと恐怖したりしている人が多くいる状態です。
この中で深く考える心の余裕をなくし、“絆の罠”にはまる人が増えたのかと想像します。
 
ただ、先進国と途上国の関係が悪化して交渉事が進まなかったり、
先進諸国が現状のやり方を省みず問題点を先送りしたりするなら、長い目で見て
先進国(特に富裕層でない人たち)もしっぺ返しを食う可能性が高いです。
感染症や環境悪化、貧困などの問題が解決できないからです(詳しくは次回)。

ということで、長い目で世界規模の問題を解決するために
・他国ばかりに責任を押し付けず、冷静に交渉しないといけない
・“絆の罠”をかけて被害者意識をあおる論法は冷静さを失わせ逆効果
―この2点を、トランプ氏の失脚する今こそ、先進国の僕たちが意識しすべきではないでしょうか。

以前に、

「魚が減る原因はたくさんある、原因となる人もたくさんいる」

「原因となる者同士の責任の押し付け合っていても対策は進まない」

みたいな話を書きました。

また、「魚が減ったかどうか、その理由は何なのか」、特に「魚が獲り過ぎで減っていないか」の議論は、意見の違う者同士で「お前らは嘘つきだ」という攻撃合戦になってしまうケースが目立ってきました(こちらに実例)。

「乱獲を隠す人は、利益の既得権を変えたくない水産庁の天下り関係者」とか、
「乱獲をでっち上げる人は、漁業を邪魔したい欧米の環境団体の手先」とか、
お互いにレッテルを貼り合って、攻撃し合ってしまうのです。

 

こういう状況の何が大変かって、誰もが「善意」「正義感」を持っていること。
正義感であるがゆえ熱く、攻撃的になります。

異なる正義同士で攻撃し合うのではなく、上手く利用し合うことが大切だと僕は訴えます。

主な内容
1.「嘘つき」認定の応酬と分断
2.冷静さを奪う“絆の罠”
3.陰謀論は乗りこなせ

・・・

 
1.「嘘つき」認定の応酬と分断

「日本の天下り官僚は嘘をついて
乱獲を認めない。欧米のように科学的に漁業規制をしよう」と言っている人がいます。彼らは「自分たちが国家権力の嘘に立ち向かわねば」という正義感を持っている。


実際のところ、国内にはしっかり獲り過ぎを防いでいる漁業だって少なからずあるし、天下り先で立派にリーダーシップを発揮している人もいるんですが…

このことを指摘されると、アンチ天下り的な人は「お前も国の御用か、嘘つきか」となってしまったりする。


逆に「欧米や環境団体のエリートが、日本の漁業を不当に乱獲呼ばわりして規制しようとしている。捕鯨問題のように、食料自給が邪魔されかねない」と訴える人もいます。「欧米の強国や環境団体に立ち向かわねば」という正義感で動いている。

もちろん、日本に獲り過ぎ状態の魚種が多くいることは、科学的には否定できません。欧米政府も環境団体も、全てが反捕鯨団体のような暴論を振りかざしている訳ではありません。でも、そのことを指摘されると、アンチ環境団体的な人は「お前も
環境団体の手先か、嘘つきか」となってしまいがち。

・・・

2.冷静さを奪う“絆の罠”

ただ、アンチ水産庁的な人も、アンチ環境団体的な人も、多くは善意で動いていています。

「嘘や陰謀のせいで、自分や仲間は正論を認められない。弱者であり被害者である」と感じながらです。

そして、同じ想いを持つ仲間の意見が叩かれると辛い。だから反撃しようとする。

仲間を叩かれまいっていう意識、人の絆というのは、確かにかけがえのないものです。

絆や熱い想いは、叱責されるべきではないでしょう。


ただ、善意であるが故、絆があるから故、人は熱くなりすぎることがあります。
「コイツらが加害者であり敵なのだ」という単純な、そして感情のこもった話というのは、分かりやすく人の心を煽る。煽られた人の多くは自説を省みる冷静さを失ってしまう。

 

意見の合う者同士だけで信じ合い、合わない者同士は「天下り」なり「環境団体」なりレッテルを貼り合って敵対します。そしてマウントを取り合う。
仲間内の主張に誤りがあると指摘されても「嘘だ、陰謀だ」「信じられない」などと受け付けなくなる。仲間内の主張に合う情報だけを発信する人を「まともな人」と考え、「仲間内の考えこそ真実」と捉える。

なので、知識が偏ります。偏った知識でしか、魚の減った理由を考えられません。


結果、魚が環境条件のせいで減った時すら「乱獲だ」と決めつけたり、獲り過ぎで資源が減っているはずなのに「漁獲が減ったのは漁師が減ったから」と見たりします。

レッテルだけで異論を全否定しては、肝心の現実を見失ってしまう。

絆というものが、時に人の視野を偏らせるという“罠”も頭に入れ、各自が注意すべきです。
仲間内の空気やそれに沿った知識だけが正しい、そんな保証はどこにもないのですから…
むしろ、空気を読まず「本当に仲間内の知識は正しいのか」と話し合うことも、時には大切でしょう。

・・・


3.陰謀論は乗りこなせ

とはいえ陰謀論って、悪いだけのものでもありません。

「天下った人が漁業界とベッタリだと、魚の獲り過ぎを見過ごしかねない」という問題意識は
「本当に魚が獲り過ぎなのか」「天下りでいい加減な仕事をしている人がいないか」と調べる努力につながります。
「環境団体が不当に厳しく漁業規制すると、漁師さんが失職しかねない」という問題意識は
「漁業規制が過剰になっていないか」「もし漁獲を減らすにしろ、漁師さんの収入を守るにはどうしようか」と考えるキッカケを生みます。

最初から「陰謀論はバカバカしい」と相手にしない人は、こういう思考に行きつけません。
謀論論(権力を疑うこと)自体は、否定したり笑ったりすべきではないでしょう。

避けるべきは陰謀論自体じゃなく、不公平な話の聞き方のはず。
「好きな人の陰謀論は聞くけど、嫌いなヤツの陰謀論は聞かない」という不公平な態度を取らず、
「こっちの人はああいう陰謀を心配しているのか、あっちの人の心配はこんな感じか」と、
とりあえず聞いてみること。自分と違う陰謀論を知っている人を探して、その知恵をもらい利用することができれば、問題はありません。

特定の陰謀論だけを信じてしまうなら視野が狭まりますが、
色々な種類の陰謀論を聞きかじって、それぞれから情報を掴む。

いわば、陰謀論を「乗りこなす」。すると、得られる知識の幅が広がるはずです。

・・・

幸いなことに、ここ数年、水産業界では、「乱獲が問題だ」という人と「乱獲を責めすぎるな」という人が、お互いの意見や知識を交換する場面が増えています。
こういう流れの中で“絆の罠”から脱する人が増えていけば、魚を増やすための議論も前に進みやすくなっていくでしょう。

政府はこれから、減ってしまった水産資源を増やすために、漁業規制を強めていくと言っています。

その中で「獲り控えで資源量が回復する魚」もいれるでしょうが、「環境条件のせいで減っているだけなので回復しない魚」「環境条件を整えさえすれば回復する魚」も出てくると思われます。

また、現状の話し合いを見る限り「本当に獲り過ぎだと考えられるのに、漁業規制の反対論が強い」という魚もいます。

規制が無駄に強くなってしまうことも、増えるはずの資源が対策不足で回復しないことも、どちらも不幸です。
こんな事態を避けるため、どのような方法で魚の増減やその原因が考えられているのか、簡単に紹介してみます。

こうやって見てみると、さほど複雑なことをせず、単純なデータを集めてつなぎ合わせるだけで、意外と「この魚は明らかに獲り過ぎではないな」といった分析が、ある程度まではできるのです。
主な内容は以下の通りです。

①「漁獲の努力と資源、どちらが減ったのか」を調べる

②「明らかに漁業ではなく環境要因のせいで増減している」ことを示す
 ②.1卵や仔稚魚の生き残り率
 ②.2放流した魚の生き残り率

③「獲り過ぎ」「栄養不足」などを示す
 ③.1獲り過ぎていないか、自然死していないか、痩せていないか
 ③.2海にいるべき魚の量

④「獲り過ぎだとしたら、誰にどれだけ責任があるのか」示す
 ④.1誰が多く獲っているか
 ④.2誰が「何歳の魚を何尾」獲っているか

・・・・・・・

①「漁獲の努力と資源、どちらが減ったのか」を調べる
ある魚の漁獲が減ったというだけだと、減ったのは「魚そのもの」なのか「漁獲努力(出漁回数とか網を引く時間とか釣り針の数とか)」なのか分かりません。
なので、「1回の漁獲努力あたり平均どれだけ多くの魚が獲れたか(専門用語でCPUE)」の増減を調べます。この値が減れば魚自体が減っていると考えるわけです。

例えば琵琶湖のアユなどはCPUEが下がらず漁獲が減っているので「漁師さんの人数が減ったので漁獲も減ったのだろう」と考えられます。逆に、資源量が減ったと言われる魚の多くは、CPUEが下がっています
また伊勢湾三河湾のイカナゴは2015年の春にある程度資源がいたはずなのに、漁期終了後の夏の調査でCPUEが大幅に下がったことなどから「漁獲はないので、水温などのせいで大量死したのだろう」と考えられています。

・・・

②「明らかに漁業ではなく環境要因のせいで増減している」ことを示す
②.1卵や仔稚魚の生き残り率
魚は小さすぎると網や釣り針にほぼかかりません。かからないはずの子供の魚が死ぬとしたら、それは漁獲ではなく環境のせいだと考えられます。「漁獲対象に育った若魚の数が、親魚の量と比べてどれだけ多いか/少ないか(専門用語でRPS)」を見れば「環境のせいで、身体の弱い魚卵や仔稚魚が大量死したようだ」「環境が良くて魚卵や仔稚魚が多く生き残り、漁獲対象サイズの魚が大発生したようだ」というのが見えてきます。

例えば1990年代前半のマイワシや2010年代後半のスルメイカの激減は、RPS=環境条件が劇的に悪化したせいと見られます(ただし、激減した後に漁獲で追い打ちを受けて、それがさらなる減少につながっているという分析がマイワシにもスルメにもあります)。
逆に、獲り過ぎの状態だと見られていた(③参照)道北のホッケが3年前から増えているのは、RPS=環境条件が良かったからだと見られます。

裏返せば、卵や仔稚魚の生き残り率(RPS)を調べると、「水温が高い年にRPSが下がる」「近場の磯の面積が埋め立てで減って、RPSが下がった」という感じで、環境悪化が魚に与えた影響を考えることができます。
ただでさえ、これまで冷たかった海に温かい海の生き物が見られるようになるなど、明らかに水温などの環境は変わってきています。こうした研究を進めることが今後、大切でしょう。


②.2放流した魚の生き残り率
卵や仔稚魚以外でも、野生での生き残り率を調べる方法があります。水揚げされるサケはほとんど、産卵のために故郷の川に戻ろうとしている時に獲られるからです。多くの稚魚が川を下ったのに、4年後に元の川に戻ってくるサケが少ないとすれば、それは漁獲ではなく自然環境のせいで死んでいるとなります。サケが死んでいるのは北半球の至る所で起きているので、日米ロが原因調査を始めるかも知れないところです。
特に日本では、毎年ある程度のサケの稚魚を人口孵化して放流しているのに、帰ってくるサケが減っています。ということは、間違いなく何かしらの環境条件のせいで、サケが帰れなくなっているということです。極力多くの国とデータを出し合って原因究明することが大切でしょう。

・・・

③「獲り過ぎ」「栄養不足」などを示す
③.1獲り過ぎていないか、自然死していないか、痩せていないか
「漁獲努力当たりの平均漁獲量=CPUE(①参照)」の増減や、「どんな大きさ(年齢)の魚が何尾獲れたか」という漁獲記録、「この年齢の魚の大きさなら、1年間にどれだけの割合が自然死(野生生物に食われたり病死したり)するのか」などのデータを合わせて考えます。「3歳の魚なら自然界で年間5割くらいが生き残るはずなのに、2割しか生き残っていないようだ。3歳サイズの魚が多く獲られた記録もあるし、これは獲り過ぎだろうな」「4歳の魚の平均体重が例年よりも2割痩せている。海が栄養不足なのかもしれない」というような感じです。

こういう過程で「海に何トンの資源がいる」などの推定もします。推定に誤差が大きく、例えば「100万トンの資源がいそう」と推定していても、実際は50万トンだったり200万トンだったりとズレてしまう危険が大いにあります。ただし、実際に“漁獲努力当たりの平均漁獲量(①参照)”などを基にした値ではあるので「資源は増えていそう、減っていそう」という目安としては有効です。

現状だと、よほど元のデータが間違っていない限り、トラフグやキンメダイなどが、数年前までで言えばマサバ、クロマグロ、北海道北部のホッケ、日本海北部のスケトウダラなどが、獲り過ぎの状態だと考えられてきました。
裏返せば、漁獲記録やデータ類を取りそろえていけると「この魚種は獲り過ぎだと思われていたけどそうじゃなかった」などと反証していくこともできます。

今の時点で栄養不足と見られる魚に太平洋系のマサバがいます。最近は成長の遅い年が多く、恐らくエサが足りていません。大西洋のコククジラも痩せた個体が多く、エサ不足が心配されています。
浅海に栄養を運んでくれる深海からの沸き上がりの強さや河川の流れ、魚の餌となるプランクトンの発生状況などをもっと調べて、成長との関係性を見るべきでしょう。

ちなみに、今の分析の欠点に「情報の遅さ」があります。分析は、過去の漁獲データや調査データを整理してから行うので、「海に資源がどれだけいるか、そのうち何トン獲っても良いか」などの分析は2年くらい前のデータを基にしていることが普通です。このため、例えば「2年前には資源は減っていたけど、今は増えている」という場合に、資源の少なかった2年前のデータから少なめの漁獲枠(TAC)が計算されてしまう、ということが起きかねません。
これを避けるために、漁協などがパソコンなどに入力したデータをすぐに科学者に送ることで、リアルタイムの資源の状態を見えやすくしようという活動が大切になりそうです。


③.2海にいるべき魚の量
多くの場合「獲り過ぎ」が何を示すかというと「人間が魚を獲るペースが、魚の増える(産卵・成長する)ペースを超えてしまっている」ことです。
もっと言うと「資源の量が、本来海にいるべき量に足りていなくなってしまうだけ獲ってしまう」ことを指すのが、近年の傾向です。

何年経っても多くの漁獲を続けようというなら、必要なだけの卵(仔)を生みだせるだけの量の親魚が必要です。
十分な親魚量を海に保ちながら、何年間も持続的に獲り続けられる漁獲量を「最大持続生産量=MSY」と呼びます。「十分な親魚を残すことで長い目で見て漁獲を最大にしよう」という理論はMSY理論といいます。

この理論には批判が多いです。何故かというと、マイワシやマサバ、クロマグロ、ホッケなどは、環境次第で増えたり減ったりしやすく(②参照)、「親が多いのに子が大量死し、次世代の資源が少ししか発生しない」「親が少ないのに子世代が多く発生する」などの現象が起きやすい(親子の量の関係が薄い)からです。親魚の少ない年でも子が多く発生することがあるというと、漁獲を制限して親魚を海に残す必要もないことになります。

ただ、近年、この理論も使えそうだという意見が主流になっています。イカナゴやクロマグロなど親子関係の薄い魚種でも『親が一定より減ると子の加入量が減る』という傾向が示されるなど、最低限の親を守ることが子の発生(資源の維持回復)に必要視されつつあるからです。

最近は、環境変動で資源が大量死して回復しづらくなってしまうことを極力避けたり、資源が大発生してくれる可能性を上げたりするため「どの程度の親魚量を保つべきか」「親魚量を保つためにどれだけ漁獲を抑えるべきか」をコンピュータで計算するようになっています。

もちろん、コンピュータの計算にはある程度の誤りがあると見られます。ただ、計算に使うデータはどんどんアップデートできますし、具体的に「このラインまで資源を増やそう」という目標が数字になることで、「このラインまで資源が増えれば漁獲を加速して良い」というような計画をしやすくなります。必要なデータを集めていくことが、今後、大切になります。

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④「獲り過ぎだとしたら、誰にどれだけ責任があるのか」示す
④.1誰が多く獲っているか
当たり前ですが、基本、たくさん獲っている漁業ほど、責任は重くなります。例えばスルメイカですが、これは完全に中国の違法漁船が獲り過ぎています。日韓を合わせたよりも漁獲が多いですから…
こういう状況の時は、国際的な漁業規制と監視を強めたり、不法物の水産物を禁輸したりと、無責任な獲り方をしている国にやり方を変えてもらう必要がありそうです。

ただし、気を付けなければいけないのは「誰々が悪いに決まっている」といった先入観です。例えば、日本や台湾が中国の何倍も獲っている(というか、そもそも環境要因に分布が左右されやすい)サンマについてまで「中国が獲ったせいで減ったんだ」的な報道が多くありますが、ちょっと無理筋です。

④.2誰が「何歳の魚を何尾」獲っているか
ただし、寿命が1~2年のスルメやサンマを考えるのは、ある意味簡単です。多くの魚はもっと長く生きるから、もう少し複雑な考えが必要です。
例えば、年老いた100キロのクロマグロを1尾だけ獲るのと、0歳で1キロのクロマグロを50尾獲るのでは、前者の方が漁獲量(キロ)は2倍多いですが、1尾しか獲っていないぶん資源には優しいです。

クロマグロやノドグロ(アカムツ)などは、大きくなるほど単価も上がっていく魚ので、基本的には大きくしてから獲る方が資源に優しく経済価値もあるのですが、高級魚として名を上げてからは小さな個体のいる漁場を狙う操業が増えたようです。こういう獲り方が資源や経済価値を損なっていないか、注意が必要です。

では、歳をとった大きな魚を獲るのが正解かというと、そうでない場合もあります。例えば身体の弱いシラスが海に100万尾いたとして、自然界で放っておいても成熟前に99.99万尾死んでしまうとします。どうせほとんど死んでしまうシラスを人間が何万尾か獲ったところで、大人のイワシに育つシラスの数はほとんど変わりません。むしろ、シラスが貴重な大人のイワシに育ったところを大量に獲ってしまう方が、資源に大きなダメージになることがあり得ます。

つまり「どの歳の魚がどの漁業に何尾ずつ獲られているか」を調べて、さらに「どの歳(サイズ)の魚が消費者に求められているか」「実際にその歳の魚を狙って獲ることはできるのか」なども頭に入れて「どの歳の魚を獲ると消費者が喜んで、かつ資源へのダメージが少なく済むのか」と考える必要があります。

ちなみに、魚種や漁獲サイズを選ぶ工夫というのは日本人の得意分野です。網目のサイズを規制したり、特定の歳の魚が集まる漁場を避けたり、そういう工夫が古くから根付いているからです。
こういう工夫を、客観的な検証をしながらさらに進めていけば「魚を獲ること」と「魚を次世代に残すこと」は、かなり両立できるでしょう。

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こうやって考え続けていくと、それぞれの海域や魚種について「資源は減っているのか、原因は獲り過ぎなのか、どう対応すればいいのか」の答えがある程度まであぶり出せます。

逆にここ数年は逆に明らかに獲り過ぎではないであろう魚(①のイカナゴなど)にまで「乱獲だ」と決めつけてしまう発信が増えたように見えます。

それと日本の場合、そもそもデータの取られてこなかった魚種も多のですが、データの足りない状態で「この魚もどうせ乱獲に決まっている」「どうせ乱獲ではないはずだ」という感じに決めつける議論も多いです。

よくある決めつけを整理すると
1.複数の事例を一緒くたにする(例「伊勢三河湾のイカナゴは乱獲では恐らくないが、他海域のイカナゴで乱獲が疑われる群がいる」ではなく「イカナゴ(全体)は乱獲状態」と拡大解釈する)

2.十分な根拠を挙げない(例「ウナギはデータ不足ながら土木工事で減っている可能性がある」ではなく「ウナギの乱獲を訴える人がいるが、ウナギの減った理由としては土木工事が大きそう」と言ってしまう)

3.自分の主張に合わないデータを無視する(例「太平洋のマサバはかつて若魚の乱獲で減っていたと見られるが、漁業管理強化後に増えた」はずが「マサバの若魚は乱獲、資源が増えたのは東日本大震災のお陰」と管理強化に触れない、「太平洋のマイワシはかつて環境変動で9割減った」ことだけを強調して「減った資源に獲り過ぎが追い打ちをかけて、さらに9割以上がいなくなった」という分析結果には触れない)

…こんな感じです。「乱獲が起きている」という人も「乱獲ではない」という人も、どちらサイドからも決めつけた発信があります。

ですが、どの例に着目するかで「資源は減っていない」というのも「乱獲状態だ」というのも「環境条件のせいで減った」というのも、全て嘘にも本当にもなり得ます。

意見の違う人に対して、例外を挙げたり細かいミスを見つけてきたりして「あの人は嘘つきだ」というのは簡単ですし、それを「あの人たちが嘘をつくのは、何か陰謀を企てているから」という話に飛躍することも出来ます。
実際、そういう陰謀論的な話はよく見られますし、これは人目を引くから拡散されがちです。
ただ、そうやって客観的根拠を出さずに誰かを悪者にしていても、いがみ合いが深まって解決策が話し合いづらくなります。

海や漁業を愛する皆さんには、極力冷静に、客観的な見方で考えることを大切にしていただけたら嬉しいです。

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