「海を守る」とかいう漠然とした言葉の意味を、おこがましくも考え続けるブログ

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2017年10月

日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載


(問)などでは「科学的に魚を守ることの大切さ」を

(問1011)などでは「科学者と漁師さんが分かり合えていない現状」を

それぞれお伝えしました。


いくら科学的に見て「漁業規制を強めた方が魚が増えて漁師さんも儲かる」となっても…

実際に漁をするのは漁師さんです。


漁師さんが科学に納得できなければ、規制は守られづらくなってしまいますし、科学者と漁師さんの間に感情的なしこりができてしまう。良くありません。


恐らく一番大切なのは、漁業界が「漁業規制は『仕事の邪魔』ではない。規制は、将来の自分たちの漁獲と収入を高めてくれるもの」という空気づくり

前提として漁師さんと科学者が分かり合うこと


そのために、科学者は漁師さんとコミュニケーションの機会をつくり、分かりやすい情報発信を心がけること。

漁師さんは、科学者に耳の痛いことを言われても、ちゃんと向き合うこと。


こうして科学者と漁業界、お互いが歩み寄ることが不可欠。これが筆者の結論です。


・・・


米国では、漁獲量を規制する時、必ず科学者の勧告に従って決めると法律で定めています。


米国海洋大気庁の元長官はこう説明します(リンク参照)

漁獲量を決める時、漁師さんの声を基にすると、『もう少し獲らせて』との声が重なって『頑張りすぎ・資源枯渇』につながりやすい。

科学的な漁業管理には反対する漁師さんもいるが、効果は絶大だ。科学を重視し始めた当初の2008年と比べ直近で、米国内の(魚資源が回復して)漁獲量が23%、水産関係(加工・流通など含む)の雇用が35%増えた」。


一方で、元長官はこうも言います(リンク参照)

漁師さんの納得なく政府が資源規制を押し付けたところで、漁師さんは抜け穴を見つけ出す。規制は守られない。

漁師さんに対し『(漁獲を規制て)短期的には損かもしれないが、長期的には得をする』と伝え納得を得る。これが政府の役割。きちんと会話し合意を得る時間が必要」。


そして、漁師さんの納得を得るために大切なのが科学だということです。


・・・


一方の日本では、科学者が「頑張りすぎ」を指摘しても、それを認めない空気が、漁業界に強く残っています(問7参照)

恐らく、今の日本の漁業界に一番大切なのは、みんなが前向きに

漁業界が「漁業規制は『仕事の邪魔』ではない。規制は、将来の自分たちの漁獲と収入を高めてくれるもの」

自分たちの商売のためにも、資源保全を頑張ろう!」

と思える空気づくり…だと筆者は考えています。


・・・


そのために、科学者は漁師さんとコミュニケーションの機会をつくり、分かりやすく情報発信をする必要があるでしょう。


国の会議で、科学者が「この魚種は今、これだけ海にいますよ」「こういう理由で減っていますよ」という説明をすることがあります。

ただ、科学者の説明は専門用語や難しい数式ばかり。正直、よほどの専門知識がなければ理解し切れません。

科学者側には、もっと噛み砕いた説明ができるよう、練習が必要です。


科学者が勇気を持って漁師さんに話しかけることも大切です。

科学者が「『頑張りすぎ』なんて指摘したら、漁師さんや行政に怒られる」と話しかけるのをためらうケース(問7参照)も多いのですが…

ちゃんとコミュニケーションを取らなければ伝わるものも伝わりませんし、そもそも、どういう話し方をすれば伝わるのかも体得できません。


そして、科学者は漁師さんとコミュニケーションを取らなければ、漁師さんから情報をもらうこと(問10のような感じ)もできなくなります。


科学者が漁師さんとコミュニケーションを取ろうとしたとき、行政が怒ったりせず応援してあげるのも大切です。


・・・


一方の漁業界は、科学者に耳の痛いことを言われても、ちゃんと向き合わないといけません。


確かに(問3)でお書きしたように、日本の漁業には誇るべき歴史があります。

ですが(問7)のご指摘したように、誇りや先入観が邪魔して「頑張りすぎ」た過去と向き合えていない部分があるはずです。


(問4)のように、「頑張りすぎ」れば、業界は自らの首を絞めてしまいます。


そして、問()のように、魚が減った理由を環境条件や外国、一部の企業ばかりに押し付けてしまえば、「頑張りすぎ」に対策できなくなってしまいます。



時代の変化の中で、船は動力化され、ソナーやGPSが入り、網は強くなりました。
その結果「頑張りすぎ」ていたとしても、日本の漁業が長い歴史を持ち、
高い漁獲効率も、多種多様な魚を生食できる形で出荷できる技術を育んできた。

世界に誇れる漁業をつくりあげてきた。この事実は動きません


意地になって「頑張りすぎてなんかいない、これまでのやり方で良い」と叫ぶ必要はないのではないでしょうか。 

日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載


前回まで、筆者は「『頑張りすぎ』が起きないよう、科学的に漁業を抑えることが大切」と書いてきました。


ただ、漁業を抑えようというと、漁業規制を強めようとするのは漁業を邪魔しようという悪だくみに違いない」と考える水産関係者の方が多くいらっしゃいます(問7参照)


その理由として業界の方がよく挙げるのが「一部の学者やメディア、環境団体が、科学を一部だけ都合よく切り取って、情報を誇張して『日本の漁業は乱獲放題!』と攻撃しているあんなもの嘘ばかり。信じるべきではない」という見方です。

おっしゃる通り、批判ありきの不正確な情報発信が、一部に見られます


問()では「日本の漁業界が業界への批判を避けるため、魚が減った理由を環境条件や外国、一部の企業ばかりに押し付けて『頑張りすぎ』を示す科学情報を無視してしまっている」と指摘しましたが…

全く逆で、「頑張りすぎでない」部分を無視してしまう構造です。


情報を捻じ曲げてしまえば「頑張りすぎでない」漁業にまで規制が入って、本来獲れるはずの魚が獲れなくなってしまう。漁業界の方が反発するのも当然です。


ただ、「頑張りすぎ」を批判する人も擁護する人も、どちらも悪気があるケースは稀です。

お互いが冷静さを失って、悪意なく情報を捻じ曲げてしまうケースが多い…と筆者は見ます。


大切なのは、意見の異なる者同士ができる限り冷静に情報と向き合って、意見交換して、できるだけ正確に「どの漁業が『頑張りすぎ』か」を判断することです。


・・・

太平洋クロマグロを例にご説明しましょう。
激減していて、主な理由は日本漁業の「頑張りすぎ」だとされている魚です。
参照:
http://www.jfa.maff.go.jp/j/tuna/maguro_gyogyou/attach/pdf/bluefinkanri-9.pdf

話題になるのが、「子どもの魚」と「親魚」、どちらへの「頑張りすぎ」がより問題なのか…
ということです。

一時期、よく
「日本海の産卵場で大規模な漁業会社が親魚を一網打尽に獲り始めた。その直後に資源が減り始めた。親魚の乱獲が主因で減ったのだ」
「大規模漁業のせいで資源が減ったのに、小規模な沿岸漁業が漁業規制されている。おかしい」
「大規模漁業会社は親魚を獲って儲けるため、政治力を使って水産庁とグルになり、漁業規制を逃れている」
なんて情報が拡散されていました。

(「クロマグロ 天下り」などで検索いただけると、こういう情報がたくさん見つかります)

ただ、この情報は、現状の科学とは合いません。

確かに、産卵親魚の大規模漁が始まった直後に資源が激減したのは事実です。
大規模漁の資源へのダメージについて、水産庁から詳細なデータが公表され切れていないことも間違いありません。
こうした情報だけ切り取ると、「大規模漁のせいで資源が減った」ように見えます。

ですが、
クロマグロが産卵を始めるのは3歳以上になってから。ですが、漁獲尾数の98%は2歳以下(上のリンク参照)。
「親魚の保全が足りていないかも知れない」というなら間違っていませんが、明らかにもっと問題なのは、未成魚の獲りすぎです。

そして
(問8)で書いたように、太平洋クロマグロ資源量へのダメージの約3割は、日本の小規模漁業が占めています。
漁師さんの人数が多く、クロマグロの未成魚多く獲っているからです。

「水産庁からの天下りが儲けるために…」なんて発信も見ますが、天下り団体がそこまで儲けているという認識は、筆者にはありません。
天下りの団体がここまで漁業規制に反対するのは、「金儲けのため」というより「業界の空気に従って」
(問7参照)いるだけだと見た方が適切。そう分析します。

・・・

(問8)の繰り返しになりますが、人情として「弱き(小規模漁業)を助け強き(大規模漁業)をくじくこと」を「正義」と感じるのは自然なことです。
そして、正義心と感情をくすぐる上のような情報発信は人に注目されやすい。

ですから、読者の正義心をくすぐれば、より多くの人に「頑張りすぎ」問題を伝えることができます。


ですが、感情に任せてしまえば、小規模漁業者の意見「だけ」重んじて必要以上に大規模業を貶めたり、小規模漁業に必要な管理が抜け落ちたりしかねない。

そして何より、「大規模漁業VS小規模漁業」「漁業界VS環境団体」などの無用な対立を生みかねないのです。

「頑張りすぎ」を批判する方には、無用な対立を生まないよう、より正確な情報発信をお願いしたい。
筆者は、そう考えています。

・・・

上のように「頑張りすぎ」を批判する方。
そして
(問7)のように「頑張りすぎ批判」を敵視する漁業界の方

どちらも、「自分たちが正しい、異なる意見は敵」と考えるケースが多いように、筆者には見えます。
こうなると、お互いに「敵を倒す」ことが目的になる。敵を倒そうと熱くなれば、冷静に情報と向き合えなくなってしまいます。

ですが、「頑張りすぎ」を批判する方も擁護する方も、実は「日本の漁業に元気になって欲しい」という目的意識は、ほとんどの方で共通だったりします。

大切なのは、できる限り冷静に情報と向き合って、できるだけ正確に「どの漁業が『頑張りすぎ』か」を判断すること

そのためには「誰が悪いか」ではなく、「何が問題で、どうすれば解決できるか」判断すること


「敵だから、嫌いだから」というだけで相手と向きあわなければ、お互いに判断を誤ってしまいます。

日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載

筆者は「頑張りすぎないために、科学者の知恵を入れながら漁業を管理した方が良い」と書いてきました


ここで「科学だって正しいとは限らないじゃないか」とツッコミたい漁業関係の方も多いかと思います。


おっしゃる通りです。科学は不確実なものです。

そんな不確実な科学を、行政サイドが一方的に漁業者に押し付けるのならいただけません。

しかし、最も実績のある武器が科学(問4参照)というのも現実です。

 

だからこそ、科学を使いつつも、海を熟知する漁業者の知恵も生かす必要があります

大切なのは、科学者と漁業者、お互いが協力することです。

 

・・・


さて、漁業規制をする際、先進国では「科学的に見ると、海には何トンの魚がいそうだ。だから、うち何トンまでなら獲って大丈夫」なんていう風にして漁獲量を決めることが多いです。


ただ、海に何トン魚がいるか、正確に調べることはできません。

1度調べて得たは良いけど、「別の調査もして計算しなおしたら全然違う結果が出ちゃいました」…なんてこともある訳です。


そこで米国の漁師さんから、こんな意見が出ています。

米国で科学的な漁業規制が入った当初、われわれ漁師は科学を信用していなかった。

だがその後、自分たちが(科学者らに魚の情報を発信し)科学の一部になれるのだと気づいた。漁師は賢く、魚の居場所などを熟知している。だから、科学者や行政に提案と対話ができる。

対話するうち(科学的にやれば魚と漁業を守れるという)信頼が生まれた。だから米国では科学的な資源管理が支持を得た」。


科学者の足りない部分を漁師さんがフォローする。

そうしてお互いが知恵を磨き合い、より深く海を理解していくということです。


日本には

魚が減っているとか『頑張りすぎ』とか指摘すると、漁業規制を嫌う漁業界や、業界との揉め事を恐れる行政ににらまれる。だから魚の状態を楽観的に見積もらざるを得ない」と嘆く科学者が沢山います(問7参照)が…


それよりも、漁師さんと科学者が知恵を合わせる米国式の方が、広い海を守るには向くのではないでしょうか。


・・・


今の日本では、科学データがある程度集まっていて、かつ食糧として重要なマダラなどの魚種に対しても、漁業団体が「科学を信用できない」として、漁業管理を強めさせまいとする様子が多く見られます。


そして水産行政の関係者からは「最近までの水産庁と漁業界は、『科学は正しいとは限らない。だから漁業者の意見を優先して漁業を管理すべき』という姿勢を貫いてきた」と聞くことが少なくありません。

ですが「正しいと限らない」ことは「軽んじて良い」ことの根拠にはならないはずです。

漁師さんの意見が正しい保証だってないのですから。


意識しないといけないのは、海を科学で理解しきるなんて不可能だということ。
「このデータは間違っているかも」と揚げ足を取っていれば、永遠に科学だけを無視してしまうことになりかねません。


大切なのは、科学者と漁師さん両方の意見を聞き、より筋の通った意見を練り上げいくこと

仮に科学者より漁師さんの発言力が強い(問7参照)としても、科学者の意見ばかり捨ててしまうのはもったいないです。

日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載

筆者は「頑張りすぎないために、科学者の知恵を入れながら漁業を管理した方が良い」と書いてきました


ここでよくある疑問として

「日本では漁師さんの自主的な漁業管理が浸透している(問3参照)んだから、わざわざ税金をかけて厳密な科学調査や漁業監視をする必要はないんじゃ?」

というものがあります。


たしかに、厳密な漁業管理にお金がかかるのは間違いありません。

コストパフォーマンスを考え、お金をかける魚種を絞るなど工夫が必要でしょう。

その他の魚種に対しては、コストのかかりづらい方法も有効活用した方が、税金をかけずに済みます。

 

ただし、漁業の技術が発達した今、科学的・客観的な検証なしに漁業を管理しても、「頑張りすぎ」を止めることは簡単ではありません(問4問7など参照)。


科学にコストをかけないケースでも、「漁師さんたちがOKを出したか否か」で管理策を決める現状のり方(問4参照)に加え、できるだけ「客観的に見て効果を発揮しそうか否か」検証する体制をつくった方が、効果は上がるでしょう。

 

・・・

 

客観的に魚の状態を見るには、水研機構や地方水試のデータを使えます。

今まで、科学者がデータ類を取っても、「『頑張りすぎ』を指摘したら漁師さんに怒られるから」などの理由で活用できていないケースが多くあったようです。

埋もれているデータを生かさない手はありません。


そして、これまでデータ不足だった沿岸の小規模漁業にも科学的な分析ができるよう、来年からは国が新しい事業を始める見込みです。
埋もれてきた沿岸小規模漁業の操業データを集約して、より客観的に海の状態を調べるというもの。埋もれていたデータの掘り起しなので、コストもさほど大きくありません。

これまで、「データ不足なので、小規模漁業に科学的な管理はすべきでない」という漁業関係者も多かったですが、これで風穴が空くでしょう。


もちろん、事業が始まれば、漁業関係者に「自分の身内が『頑張りすぎ』ている」という、耳の痛い情報が届くこともあるはずですが…
情報を極力冷静に受け止め、より広い視野から必要な対策を練っていければ、魚と漁業を未来に残しやすくなります。

それに、こうして客観的な情報が集まれば、必要以上に厳しい「頑張りすぎ」対策が入って漁師さんを苦しめることも減るでしょう。


・・・

 

さて、実際に漁業の「頑張りすぎ」をコントロールする方法として、大きく分けて2つの方法があります。

1つ目が「アウトプット(数量)コントロール」。2つめが「インプット(努力量)コントロール」です。

当たり前ですが、数量をコントロールをするには、「魚が何トン獲れたか」を記録して、「漁獲量が○トンに達しました!これにて操業打ち切り!!」と線引きしないといけません。

漁船1隻1隻を見張って、魚1種類1種類の漁獲量を調べる必要があります。調べるには人手がかかりますから、コストが高くなります。


一方、努力量のコントロールは、漁期や漁場、漁具の種類などなどを規制する方法です。

あまり監視が要りませんから、コストも安くなります。

ただ、努力量のコントロールは抜け道が多いです。例えば「漁期が半分に短縮されたから、代わりに網を投げる回数を2倍にしちゃおう」「もっと良い魚群探知機を使っちゃおう」なんて工夫が簡単にできます。


最近「数量コントロールが大切だ、努力量のコントロールは効果が薄い」なんて報道が多くあるのですが、一理あります。

とはいえ、コスト的に数量コントロールができない漁業が多いのも確か。そういう漁業には、冒頭の国の事業などを活かしながら、科学的に「どれくらい努力量を抑えれば魚を増やせそうか」考えていくのが良いかと思います。


筆者の周りには「漁船数(≒監視コスト)の少ない大規模漁業には数量コントロールが効果的。ただ、漁船数の多い沿岸小規模漁業には努力量規制の方が向きやすい」という専門家が多いのですが、ごもっともだと思います。

大切なのは「数量をコントロールしているか」ではなく、「導入するコントロール策が十分かどうか」なのです。そのために、各漁業に合った方法を考えていくのが効果的でしょう。

日本漁業の「獲りすぎ・頑張りすぎ」について考える今回の連載


このテーマを扱うと「『頑張りすぎ』ているのは、企業的な大規模漁業でしょ。家族経営の小さな漁業の影響なんて知れてるよ」とツッコミが入ることが多いです。


たしかに、「明らかに『頑張りすぎ』で減った!」という魚は、スケトウダラ(日本海北)、ホッケ(道北)、かつてのマダラ(太平洋北)、マサバ・マイワシ(太平洋)などなど、大規模漁業の対象種が主です。


では、本当に小規模漁業に問題はないのか。実は、結論を出せないケースが多かったりします。

小規模漁業はデータ類が少なく、魚が減っているかどうか、漁業が「頑張りすぎ」ているかどうか判断しづらいのです。


そして、現状あるデータからは、小規模漁業でも「頑張りすぎ」のケースが少なくないとみられます

これからデータを取って検証した場合、「頑張りすぎ」の漁業はより多く見つかるはずです。

大規模漁業だけに責任を押し付けてしまうと、必要な対策を入れそびれてしまうかも知れません。


・・・


まず、大規模漁業が盛んな沖合部だけでなく、小規模漁業中心の沿岸部でも漁獲量は減り続け、今や全盛期の半分です。


小規模漁業の対象でも、データのある魚種については漁師さんの人数ではなく「魚そのもの」が減っているとみられるケースが少なくありません。

例えばトラフグタチウオキンメダイなどなどについて「頑張りすぎ」との報告が出ています。


また、福島では小規模漁業の対象種も原発事故後の操業鈍化で大幅に増えていて、事故前までの漁業が少し「頑張りすぎていた」ようだと言われています。


そして他地域の小規模漁業も、管理の枠組みは福島と似ています。

主に漁業者団体の自主管理や漁師さん同士の話合いによる管理で、科学的な情報を反映できているケースは限られるのです。

福島以外の小規模漁業も、まだ「頑張りすぎ対策」が足りていない可能性があります。


・・・

そして、「小規模漁業は規制しないで良いのでは」という声が目立つのがクロマグロ。

「大規模漁業会社が水産庁とグルになって科学データを捻じ曲げ、漁業規制逃れをしている」なんていぶかしがる声が絶えません。


確かに、大規模漁業が資源に与えるダメージには、十分に検証されていない部分があります。検証し、必要に応じて大規模漁業をより厳しく取り締まることも考えるべきでしょう。

 

ですが、日本は世界の先進国の中でも、小規模漁業者の人数がトップクラスに多い国。

先進国なので、魚群探知機などのハイテク機器も使え、かつ人数が多い。そのため、たくさんの魚を獲れるのです。


国際機関の分析によると、太平洋クロマグロに与えるダメージのうち32%は、西太平洋(≒日本)の沿岸小規模漁業。西太平洋(ほぼ日本、少し韓国)の巻網が52%を占めているのよりは少ないですが、それでもかなりのダメージを与えていることになります。


少なからず「小規模漁業は理不尽な規制を受けている、大規模漁業だけ規制しろ」という発信がありますが、それは適切とは言い難い…これが、現状のデータからでる結論です。


にも関わらず、今月も北海道で漁獲枠をオーバーした小規模漁業が、水産庁からの制止を振り切ってクロマグロを獲り続けるなど、資源保全に協力的でない漁業も少なからずみられます。


こうして協力でない現場が現れると、他の漁村まで「自分たちも協力したくない」となり、漁業規制がなし崩しになりかねません。


小規模漁業関係者も「魚を未来に残すために、自分たちの協力が必要なのだ」と当事者意識を持つ必要があるでしょう。


・・・


人情として「弱き(小規模漁業)を助け強き(大規模漁業)をくじくこと」を正しいと感じるのは自然なことです。

元々は筆者もそういうタイプの性格ですし、国連機関だって小規模漁業の保護を謳っています。

 

ですが、小規模漁業でも大規模漁業でも、漁師さんは家族や仲間の生活を守るために仕事をしています。

漁師さんたちが(恐らく無自覚なうちに)「自分たちの獲り分を多くしよう、他の漁業の獲り分は少なくなるようにしよう」とするのは当たり前ですし、責められません。

 

だから、小規模漁業者の意見「だけ」を優遇すれば、必要以上に大規模業を貶めたり、小規模漁業に必要な管理が抜け落ちたりしかねない。そこだけは、忘れてはいけません。


感情は大切にしつつも、「感情が状況判断を狂わせるかもしれない」と自覚しながら情報と向き合わなければ、情報を客観的にみて効果的な対策を取ることが難しくなる

筆者は、こうまとめたいと思います。

 
ご意見、ご反論、お待ちしております。

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