日本では、漁業を規制されたくない人と、規制したい側の人が断絶しがちです。

規制されたくない人は、規制しようとする人を「漁業者の仕事を奪う悪者」と、

規制したい人は、反対する人を「乱獲で魚資源をつぶす悪者」と捉えやすい。

両者の議論はつぶし合いになりやすく、魚や漁業を蘇らせる方向に進みづらい。

元々はお互い、漁業を想って動いているのに、不幸なすれ違いです。


すれ違いの大きな原因にデータ不足がありました。

データが足りないから「どの魚を漁業規制で守るべきか」や

「どの魚は豊富にいてもっと獲れるのか」の判断が分かれてしまう。

まずデータをしっかり集めることが大切です。


日本には独自の漁協などのシステムとIT技術があります。

この強みを活かせば、恐らく世界一精密に、魚や漁業のデータを整理できます。
データを生かした「スマート水産業」を、政府も目指し始めました。

 

アジア・アフリカ圏は全体として魚種や漁業の種類、漁船が多いので

それぞれのデータを整理し漁業を管理するのは難しいとされてきました。

しかし、日本であれば、その難題に答えを出せるかもしれません。

データを揃え、活かしていく体制が整えば、
海や魚を十分に大切にしている漁師さんは、その努力を証明しやすくなります。
努力が足りなかったりズルを隠蔽したりする漁業者は、責任を問われます。
「努力不足の人のせいで魚が減って、周りや消費者があおりを食う」のは止めよう。
正直者がバカを見るやり方は卒業しよう。
それが国の方向性となり、改正漁業法にも反映されています。

 

(主な内容)

1.「正義 VS 正義」で断絶が生まれる

2.世界一、データを集めやすい国

3.世界一、正直者が得をする漁業に
 

★★★★★★★★


1.「正義 VS 正義」で断絶が生まれる

 

前章 http://livedoor.blogcms.jp/blog/taketo55/article/edit?id=16613762 では、
日本の漁業関係者は乱獲を示すような科学データを封殺しがちだと紹介しました。

ただ、実は、言論封殺的な空気は漁業規制を提案する側の一部にもありました。

証拠不十分な漁業まで乱獲と決め付けたり、それを「決め付けじゃない?」と
指摘してくる人に対しては「御用学者」などとインターネット上で叩いたり。
特に、巻網という漁法や水産庁を擁護する意見は、意見に客観的な根拠があるか
否かを問わず、感情的に叩いてしまう“規制推進派”が目立ちました。

規制したい側もしたくない側も、同じ迷路に入りがちだったのです。

規制されたくない人は、規制しようとする人を「漁師さんの仕事を奪う悪者」と
規制したい人は、規制に反対する人を「乱獲で魚資源をつぶす悪者」と考える。
“悪”を貶すことで自らの主張を通そうとする。
双方が憎み合い断絶し、ますます、意見の合う仲間内の知識だけを信じていく。

お互い、自らの主張に合わない知識は叩き潰してしまう。
お互い、偏った情報で状況を判断していく。

「どの魚が減っているか」「減っとしたら、どう対策すべきか」の判断が狂います。

お互い、きっと怖かったのでしょう。

「正義(=自分達)が悪に負けたら、漁業がダメになる」と。
正義感に燃えて論争していた方々を、叱責はできませんが…

対策を打てず魚は減ったまま、人々は憎み合っている…では、皆が不幸です。

  

漁業を規制したい側としたくない側、両者が断絶してしまった大きな原因に、
政府が魚のデータを集めていないことがあります。


欧米諸国が数百魚種のデータを取る中、日本は50種。

「どの魚が豊富でどれが減っているのか、その原因は何なのか」が不透明です。

データがあっても、「この魚は乱獲っぽいけど、そうとも限らない」とか

「乱獲じゃないっぽいけど、乱獲の可能性も捨てきれない」という場合が多い。

だから、漁業規制を避けたい人は「乱獲の証拠なんてない!」と。

規制を推したい人は「あれもこれも乱獲!」と。それぞれ好きなように

状況を判断し、どんどん、両者の見解がズレていきました。

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2.世界一、データを集めやすい国

そんな中、ついに去年、日本政府はデータ集めの対象を
200魚種まで増やす方針を発表しました。

 

これまでデータが足りなかった大きな理由は予算不足。
年間予算は米国の7分の1以下です。
データを取る予算は、他の予算よりおろそかにされがちでした

(参考 https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/87291

https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/87297 )が、
今は与党からも水産研究への予算を求める声が強いので、

増額に期待がかかります。

 

とはいえ、日本などのアジア・アフリカ圏は、欧米よりも魚種や漁船が多い。

魚や船それぞれのデータを取るには、かなりのお金が必要そうです。

国のお金にも限りがあるので、安くデータを集める工夫も大切になります。
 

そこで、期待がかかるのが、日本独自の漁業のシステムです。
日本の漁業の多くは、漁業権や許可がないとできないため、
全国15万人の漁師さんの動向を、国や県が把握しています。
また、獲れた魚の大部分は漁協などの市場を通して売られるので、
獲れた魚の種類や場所、量、獲れた日付を掴みやすいです。
関連: https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/78318

漁協や市場の協力があれば、漁獲量だけでなく、漁獲に費やした時間や漁場位置など、
「どの漁船が、どの魚を獲るのに、どんな努力をどれだけしたか」も調べられます。
「この魚種は努力しないでもたくさん獲れる」「努力しても獲れない」などが
見えてくるので、かなり魚の種類ごとの増減を調べられる。

今まで、市場の伝票は手書きのものも多く、集計するには人手や時間、お金が
かかりすぎました。データの揃わなかった大きな原因です。
ですが、今はスマホやパソコンが普及しています。こうした機器を使って
漁獲報告や伝票を電子データにすれば、メールなどで簡単に転送できます。

とはいえ、電子データを入力する手間も馬鹿にならないので、
忙しい漁業現場に負担がかからないよう、工夫が大切になります。
国や研究機関は、データを手軽に入力するためのスマホアプリや、
スマホの写メで魚を撮って魚種やサイズ、量を推定する仕組み
などを開発しようとしています。
スマホの写メで水族館の魚種を高精度に見分けられる現代ですから、
https://iphone-mania.jp/news-222576/
実用化に期待は大きいです。

政府は、こうして海や魚の状態を詳しく調べ、活かしていく水産業を
「スマート水産業構想」と名づけ、実現を目指しています。
スマート水産での資源評価
(規制改革推進会議第3回水産ワーキング・グループ資料〈2019年2月〉より)

これからは一部の科学者だけでなく、漁師さんや市場の知識も借りながら、
より精密に魚や海のデータを取ってこよう、データを生かして魚を増やしつつ
漁場探しや流通の効率化にも使っていこう、という方針です。
スマート水産業
(水産庁ウェブサイトより)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/nourin/dai13/siryou5.pdf

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3.世界一、正直者が得をする漁業に

「どの漁船がどの魚をどれだけ獲ったか」が調べられるようになれば、
漁船は獲った量をごまかしづらくなります。漁獲量を規制したときに、ルール違反を
監視しやすい体制と言えます。

11年前、水産庁は漁獲量規制の普及を検討して、
「漁船の多い日本では監視コストが追いつかない」などを理由に、
無理との結論を出しましたが、状況が変わってきているということです。

漁獲量を規制したとき、例えば漁船が「安そうだから」と洋上で捨ててしまったり、
市場でないところで水揚したりして、獲った量をごまかしてしまう危険はあります。
ごまかしを避けるため、他国では漁船の動きをGPSで調べたり、船にカメラをつけたり
新しい技術を入れて対処している例があります。
(参照: https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/73102 )

ただし、漁獲量規制は、「どの魚種を獲るか狙えない」漁法
(定置網など、沿岸の小規模漁業に多い)には難しいです。
そこで、改正漁業法では、漁獲量をコントロールするのが難しい場合に、
漁獲量そのものではなく「漁獲努力量」を絞る方法もOKだとしています。

このように、日本では、小規模漁業にまでしっかりとデータ集めや漁業管理を
できるだけの下地(漁協や市場、IT機器、法律)が整っていている。
この下地は恐らく、世界中でも最高の水準です
(第1章よろしく、EUですら小規模漁業は管理し切れていませんしね)。


データや監視がより充実していけば、「この魚は漁師さんの努力で増えています」、

「A県の漁業規制は十分厳しいですが、B県の努力不足で資源が減りました」、

「この魚は乱獲じゃなくて埋め立てで減りました」などが、少しずつ見えてきます。

海や魚を十分に大切にしている漁師さんは、その努力を証明しやすくなります。
努力が足りなかったり情報を隠したりする漁業者は、責任を問われます。
「努力不足の人のせいで魚が減って、周りや消費者があおりを食う」のは止めよう。
正直者がバカを見るやり方は卒業しよう、というのが国の方向性です。


今後、データ提供や科学的な管理をしてくれる漁師さんには優先的に補助金を出す、
漁獲量をコントロールしづらい漁法同士で漁獲枠を融通する仕組みを考える
(参照:自民党の行革推進本部がこれらを求めています https://fumiaki-kobayashi.jp/2019/04/25/00-23-01/ )

漁獲努力量を効率的に、科学的な裏づけを持って管理する方法を考える、
(参照: https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/83330 )
などなどの工夫も進みそうです。


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日本は、上のような取り組みを進めていけば、
「魚種も漁法も漁船数も多いのに、資源を回復させた国」として、
アジア・アフリカのお手本に、世界のパイオニアになれる可能性を秘めます。


ただし、本来、データで海を理解し尽くすことなどできません。
より多くの人の視点を入れながら、データの解釈を極力偏らずに行って、
科学の不正確さを修正する努力が大切です。
次回は、そのためにどんな努力ができそうか考えます。